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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第2章 青少年期 九龍城砦黒議会編

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21「霹靂」


 これからの『便利屋ハンドマンの行方』を左右する黒議会の2日目がやって来た。

 僕は表情や感情を悟られぬよう、パンプキンの防護マスクを頭から鼻先までを覆う形状に変化させて議会室に入室する。巨大な水槽で囲まれた部屋には、他の番街から訪れた多くの便利屋が既に集められていた。

 しかし、部屋の中央に置かれた木製のテーブルに備えられた椅子の数は、二十にも満たない数しか用意されていない。恐らく、峻宇(ジュンユ)爺さんは議会室に集められた者の中に、『便利屋としての器』に相応しくない人物が多いことを知っていてわざわざ席を減らしたのだろう。


「ジャックオー。そのパンプキンの防護ヘルメット。まあまあ様になってるな」


 と声を掛けてきたのは、僕の後から議会室に入室してきた技巧工房ブラザーフッドのオーナー、マクスウェル・フッド・スレッジさんだった。

 彼の背後には、白人の巨漢ジェイミーさんや白髪のドレッドヘアーが特徴のナディアさんがいる。と思いきや、オマケにもう一人居た。


 その人物は普段から民族風の仮面を被っており、近寄り難い存在だったので僕は声を掛けなかった。が、彼はその民族風の仮面を取って素顔を晒して僕に挨拶をしてくれた。


「アクセル。いや、ジャックオー。魔術学校ではロクに話してあげられなくてごめんな」

「え……プロテイン君?」


 民族風の仮面を被った技巧工房ブラザーフッドのもう一人のメンバーは、僕が魔術学校でもよく知っている友達の一人、あの白いタンクトップをこよなく愛する『プロテイン君』だった。


「魔術学校ではこれからも『あのキャラ』を続けていくけど、仕事中は普通に喋るから心配しなくてもいいからな」

「えーっと……うん。なんだか意外すぎてメッチャびっくりした。とりあえず今日はよろしくね」


 まさか、あの『パワー』や『やー』しか言わない人物が技巧工房ブラザーフッドの一員だなんて思うはずがない。というか、ただでさえキャラが濃すぎるのに、どうして民族風の仮面まで被る必要があるんだ?


「今日の議題は『三番街で起きたメビウスの輪・壊滅事件』についての情報提供だ。技巧工房はなるべく情報を明かさないつもりだが、他の番街からお前の名前が挙がった場合、お前の方で上手く処理してくれると技巧工房側としても助かる」

「うん。こっちも色々と準備してるよ。万が一技巧工房側にデメリッドが働く発言があった場合、マクスウェルさんには『僕たちを切り捨てて構わない』って伝えておいてくれ」


 反政府組織メビウスの輪を壊滅させたのは、紛れもなく僕だ。

 そしてその犯行の一部には、イザベラ師匠も関与している。

 ()()の番街の便利屋は、反政府組織に癒着しないことを前提に、便利屋としての活動をシティから許可されている。


 今回の場合、僕が行ったのはシティから受けた正式な依頼であって、勝手な行動ではない。自身の街に存在する青年団が反政府組織に成り下がった為、同番街に存在する便利屋が仕方なく彼らを抹殺しただけだ。


「分かった。マクスウェルさんにはそう伝えておくけど、彼は義理堅い人だし【五三同盟】の事を思っているから無理だと思うよ」


 プロテイン君はそう言い残して、マクスウェルさんの傍に近づき耳打ちをする。その数秒後、マクスウェルさんは薄暗い部屋でもハッキリと分かる様な呪力の粒子を指に漂わせながら、中指を立てて僕に挑発してきた。

 

 相変わらずマクスウェルさんはカッコいい人だ。

 どうしても五三同盟を破るつもりはないらしい。

 それに黒議会では僕に有利な発言もしてくれるのかもしれない。


 なんて事を考えていると、背後で佇んでいた二体の機甲骸(ボット)とエイダさんが声を掛けてきた。

 クラックヘッドは「注意してください。アクセル様。この部屋には殺気が満ち溢れています」と言い、ビショップは「一応、機械鞄を持ってきているので、戦闘になった際はアクセル様とエイダ様は直ぐにお逃げください」と言っていた。


「大丈夫だよ。これぐらいの殺気が漂っていないと黒議会って感じじゃあないからな」

「アクセル先輩。私、怖すぎてお腹が痛くなってきました……」


「エイダさんは僕の隣に座りな。立ってるより座った方が楽だからね」

「良いんですか? 私、今回の議会内容には少ししか触れていませんよ?」


 彼女が不安そうな顔をしながらお腹を押さえていたので、僕はカボチャ型のマスクを少しだけずらして顔を見せた。


「お前のお腹が痛いのは、人間だって証拠だ。人間は普通、こんなに怖い面子に囲まれたら緊張して腹が痛くなるのが当然なんだよ」

「人間だと認めてくれるのは嬉しいんですけど、お腹が痛すぎて倒れそうです――」


 頼りないホムンクルス……だが、彼氏からしてみると可愛くてしょうがない。

 効くのか分からないけど、ロータスさんを落ち着かせた様に幸せホルモンを散布しておこう。


 僕は卓上に置かれたコップに手を伸ばし【噴霧(ミスト)】と呟いて、コップの中の液体を水の粒子へと変化させる。その後、少しだけ息を吹きかけ、セロトニンを水の粒子に含ませた。


「何だか……凄く緊張がほぐれました。アクセル先輩、ありがとうございます」


 エイダさんに返事をしようとしたが、その前に黒議会の纏め役である(リウ)峻宇(ジュンユ)(チェン)大佐を連れて議会室に現れたので、僕はエイダさんを隣に立たせて立ち上がった。


「議会室に血生臭い匂いが漂っておる。よほど今日の議題に興味がある便利屋が多いようだな。今回の議題はあくまで【シティに害を成す輩が壊滅した原因を探る情報の共有】だ。誰が何処で何をしたからと言って、ワシらにそれを裁く権利などない」


 峻宇(ジュンユ)爺さんはそう言い、木製のテーブルに備えられた椅子に座った。その直後、司会進行役の(チェン)大佐から黒議会の開始が宣言された。


 まず初めに声を上げたのは、壱番街の新聞記者ディエゴ・ウォーカー氏であった。

 彼は高価なブランドのスーツで全身を包み込み、高圧的な笑みを浮かべながら僕の方をじっと見つめてくる。


 席から立ち上がったウォーカー氏は、議会室を取り囲む巨大な水槽を見渡しながら、嫌悪感を抱かせる口調で喋り出した。


「まず言っておこう。私はビジネスマンだ。そしてスクープをこよなく愛する新聞記者でもある。大衆は常に新しいスクープを求めている。この事が理解できているか?」

「ウォーカー氏。それは僕に言っているのか?」


「勿論だ! 今回の黒議会は貴様を罰するために開催されたようなモノなんだぞ? 立場を弁えたまえ少年!」

「少年じゃあありませんよ。今年で十六歳を過ぎましたし、これでも二児の父親ですから」


 ウォーカー氏は劇的な身振り手振りを使って、議会室に居る人々を扇動するように味方に着けようとしている。

 

 随分と面白おかしい人間だ。余興にはピッタリだ。

 このまま喋らせておけば良いのもが見れそうだが、そこまで僕は暇じゃない。


(リウ)峻宇(ジュンユ)首領。ディエゴ・ウォーカー氏の発言からは、メビウスの輪に関する情報が得られるとは思えません。彼を黒議会から即刻退室すべ――」


 峻宇(ジュンユ)爺さんにウォーカー氏の退室を告げようとした瞬間、ウォーカー氏は信じられない力で木製のテーブルを叩いて亀裂を作った。

 その後、ウォーカー氏は「申し訳ない。()()()()()の扱いに慣れていなくて、つい……」と言い、続けて胸ポケットから茶封筒を取り出した。


 太極図の術式も使って知覚できていたはずだ。

 化学物質は脳と副腎から放出して、いつでも反応できたはずだった。


 なのに――どうして今のが反応できなかった?


 コイツ……後天性個性の事を隠すつもりも無いってことは、この六日間のうちに僕や便利屋ハンドマンのメンバーを一人残らず消すつもりだな。

 いや、コイツだけじゃない。カイレンから後天性個性を与えられた人間は、全員敵だと思った方が良さそうだ。


 何にせよ、あちらさんがそういう態度で出るのであれば、こっちも堂々と戦ってやるだけだ。

 奴らは恐らく、四日目と五日目の【闘技大会】とやらに参加して、大衆の前で僕を倒すことで自分自身のプライドを取り戻そうとするはず。

 そして最終日の黒議会時、僕が各番街に持つ縄張りを、前日の闘技大会で僕を打ち負かした褒美として奪い取ろうとするはずだ。


「やれるもんならやってみろよ。こっちは色んな物を背負って来てやってんだ。簡単に負けてたまるかよ」


 ウォーカー氏は茶封筒から一枚の写真を取りだし、それを木製のテーブル上に滑らせて、峻宇(ジュンユ)爺さんに差し出した。

 どうやらメビウスの輪を壊滅させた人物に関わる『決定的な証拠写真』でも見てしまったようだ。


 峻宇(ジュンユ)爺さんは「本日の議題【メビウスの輪・壊滅事件の情報共有】に関する重要な情報を入手したため、本日の黒議会はこれにて終了する」と言い、席を立った。

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