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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第2章 青少年期 九龍城砦黒議会編

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13「ヤンデレライオン」


 それからあっという間に時間が進んで夜になり、時刻は閉店時間を過ぎた。マーサさんとアリソンさん、ビショップとクラックヘッドはオブリビオン神学校からそのまま帰宅。僕とエイダさんは店の戸締まりをして、診療所トゥエルブに寄ってから屋敷へ戻る事になった。

 

 結局、ユズハ先生は便利屋ハンドマンを訪れなかった。

 何か急な用事でも出来たのかもしれない。

 もしかしたら、魔術学校側で学生が問題を起こして、先生はそれの対応に追われているのだろう。


「まあ、どうせ明日は学校に行くんだし、その時に話せば良いよな」

「アクセル先輩。お店の戸締まりはオッケーです!」


 エイダさんに店の戸締まりを確認してもらった後、僕は彼女を浮遊型蒸気自動車の助手席に乗せて、診療所トゥエルブへと向かう。夕方にあれだけキスを交わしたせいなのか、エイダさんは妙に機嫌が良かった。

 彼女はマイバッグの中からチョコレート味の携帯固形食料(レーション)を取りだし、鼻唄を歌いながらリズミカルに体を左右に動かしている。


「この車は飲食禁止だ。屋敷に着くまで我慢しろよ」

「ケチ臭いですよ、アクセル先輩。それにこの車は私とロータスさん、リベットさんが選んであげた車じゃあないですか。ごちゃごちゃ言わないでさっさと診療所に車を走らせてください」


 面倒な女だ。やっぱり車は自分で選ぶべきだった。

 この車はポンコツホムンクルスとムチムチ女性兵士、ヤンデレライオンに選んでもらった浮遊型蒸気自動車だ。

 彼女たちは、機能性を無視した曲線美を描いたクラシックカーを選ばず、大衆が好むような大勢が乗れるワゴン車を選んで僕に買わせた。


「着いたな。エイダさんは車の中で待ってる?」

「はい。神の祈り子の件は、先輩の個人的な依頼のひとつですからね。首を突っ込むつもりはありませんよ」


 等と言って、ポンコツホムンクルスは肉が詰められた缶詰を取りだし、『こっちも美味しそうな香りがしますね』とぬかして肉を食べ始めた。


 車内での飲食禁止の件は諦めよう。

 どうせエイダさんを注意したところで、ロータスさんやリベットが彼女の味方に着いてしまえば、僕が不利になるだけだ。


「リリスは当分入院するだろけど、レンウィルとシルヴァルトは行くあてがないと思う。奴らの考え次第だけど泊まらせる予定でいるけど……」

「えー。じゃあ私の屋敷に泊めるんですか?」


「残念だが、あれは”僕の屋敷”だ。そして、お前は僕のペットだ。ポンコツホムンクルス」

「200種類以上もキスをしたのに! まだ私をペット扱いするんですか!? ホムンクルスにも人権をください!」


 等と言い放つエイダさんを車に放置して、僕は雑居ビルの階段を駆け上がる。診療所の扉を通って廊下を歩いていると、思いもよらぬ人物に出会った。


「あれ……ユズハ先生じゃないですか。どうしてここに居るんですか?」


 廊下の壁に寄り掛かっていたのは、彼氏から奪い取ったTシャツを着たような私服姿のユズハ先生と、レンウィルとシルヴァルトの姿だった。


「アクセル。店に寄らなくて申し訳ないな。この診療所にレンウィルたちが居るという情報が入ってきたので、奴らと少し話をしていたのじゃ」

「別に構いませんよ。ちょっと頭の中を整理するので待ってくださいね……」


 どうしてここにユズハ先生が居るんだ?

 いや、待てよ。ユズハ先生は(むくろ)の教団の『転生の境界者』の派閥に属する団員の一人だ。

 そしてユズハ先生は先週、僕の体を巨大な腕でぶっ飛ばして気絶させたことがある。

 彼女はあの後、【カイレン】っていう男がどうのこうのって言ってた気がするな。


 そしてレンウィルたちとユズハ先生の関係だ。

 レンウィルは神の祈り子というテロ組織を名乗っているが、その正体は(むくろ)の教団の『人格破綻者』の派閥だ。

 そのレンウィルに後天性個性を無理矢理与えたってのも、確か【カイレン】って男だった気がする。


 それなら三人が一緒に居るのは何も不思議ではない。


 ユズハ先生が何かを言い出そうとしたので、僕は額に指を置いて『謎は全て解けました。全部理解しているので何も言わなくて良いですよ』と言い、ドヤ顔をキメながら人差し指を向ける。


「ふんっ。ユズハ先生。僕のIQは二百を越えているんですよ? 三人の関係を瞬時に見抜くなんて”どんと来い!”ですよ。結局は”カイレン”って男が関係するんですよね?」

「妙にイラつく喋り方をしているが、お主の言う通りじゃ。正にその【カイレン】という男について話しておったところだ」


 どうやら本当にユズハ先生とレンウィル、シルヴァルトは”カイレン”という男について話をしていたらしい。

 それからユズハ先生は、レンウィルとシルヴァルト、リリスが遭遇した”機械化した三面地蔵”について語ってくれた。


「アクセル。”機械化した三面地蔵”について話は聞いたか?」

「今朝シルヴァルトから聞きましたよ。顔が三つある地蔵の妖怪って奴ですよね?」


「その通りだ。恐らく、カイレンは蒸気機甲骸(スチームボット)や鉄屑、鉱山で採掘した錬成鉱石を元にして三面地蔵を機械化させたのだろう」

「待ってください、ユズハ先生。”させた”ってことは、あの場。九龍城砦にカイレンって男が居るかもしれないってことですか?」


 ユズハ先生は持っていた七度返りの宝刀を強く握り締めた後、「そうかもしれぬ」と言って俯いてしまった。

 

「三面地蔵はカイレンが作った”改造呪霊”じゃ。改造呪霊とは人の怨念と呪力、霊力を掛け合わせて作った妖怪のこと指す。カイレンは余が居た別の異世界でも、大勢の人間を改造呪霊と呪術で葬り去った極悪人じゃ」

「え……ユズハ先生って異世界転生者だったんですか!?」


「正確に言えば”転移者”だな。『エ○ンの賜物』にも詳しければ、『コ○クトやバラ○イカ』という歌がどれほど穢れてしまったのかも知っている」

「一瞬、貴方のことをぶん殴ろうと思いましたが、あちら側の人間ではなさそうで安心しました」


 なるほど。ユズハ先生は異世界転移者か。

 もしかしたら、カイレンという男に大切な人でも殺されたのかもしれない。

 カイレンがどんな人物なのかは分からないが、ユズハ先生がどんな人物かは分かる。


 ユズハ先生は(むくろ)の教団の『転生の境界者』の派閥に属する、最強と呼んでも過言ではない霊術師だ。

 それに僕の屋敷の地下に存在する地下神殿で遭遇した際には、【臨界操術・甲冑の双腕】という術式を使ってきた。

 彼女は僕が作り上げた磁力の狭間ごとぶん殴ってきた圧倒的な力の持ち主でもある。

 そして彼女が持つ【七度返りの宝刀】の能力。

 この能力について、僕は何一つ分かっていない。

 以前、世界の理と真を知るパンプキンに宝刀のことを尋ねたのだが、彼女も宝刀のことは知らないと言っていた。


 これがユズハ先生について分かっている情報。

 そして、そのユズハ先生が”逃がしたり勝てなかったり”した相手というのが、【カイレン】という男。


「はぁ……この依頼は随分と面倒な依頼ですよ、ユズハ先生」

「申し訳ないな、アクセル。報酬は(むくろ)の教団からちゃんと支払われる。前金として金貨五千枚を用意しておくそうだ」


 金貨五千枚の前金か。随分と太っ腹だな。

 まあ、命が懸かっている依頼だから、そんな大金にもなるよな。


「分かりました。金貨は屋敷に届けてください。レンウィルとシルヴァルトを屋敷に泊める予定でいるのですが……」

「それに関しては心配せんでいい。奴らは余のセーフハウスで身を隠す予定じゃ。お主には沢山の借りがあるからな、これ以上は甘えられん」


「そうですか。じゃあ彼らのことは任せますね。それとユズハ先生。九龍城砦で行われる【黒議会】は二週間後です。それまではあまり目立った行動はしないでくださいね?」

「分かっておる。色々と手配をしてくれて感謝するぞ、アクセル」


 レンウィルとシルヴァルトの事はユズハ先生が面倒を見てくれるらしい。

 僕の屋敷に泊めても良かったが、要らぬ心配だったようだ。

 診療所から雑居ビルの外にある車へと向かっている道中、階段でリベットと出会った。


「こんばんは、ヤンデレライオンちゃん」

「私にはリベットっていう、ちゃんとした名前があります。こんばんは、アクセルさん」


 獅子耳をピクピクと動かしたメスライオンは、頬を膨らませて僕を睨み付けている。

 どうやらご機嫌斜めであるようだ。

 

「なんか怒ってる?」

「うん。怒ってる。どうしてか知りたい?」


 そりゃ知りたいに決まってる。が、内容によるな。


「知りたい……かな?」

「かな? ってなに? 仕方ないから教えてあげる。アクセルくん。昨日、ロータスさんとセ○クスしたでしょ。私は獣人族だから匂いで分かるよ」


 おー。匂いか。そこは盲点だった。

 流石は獣人族。

 ここで嘘をついてもバレるに決まっている。

 正直にゲロっちまおう。


「し、しました」

「だよね。それだけ?」


 はい? それだけってどういう質問?

 リベットは僕に何を聞いているの?

 え? 何を求めているの?


「それだけ……って?」

「だから……昨日はセ○クスしただけじゃないよね。って言ってるの」


 不味いぞ。この展開はもの凄く不味い。

 まさか――。


 等と考えていると、リベットは白衣の内ポケットから見覚えのある【青色の小瓶】を取り出した。小瓶には『劇薬につき注意』というラベルが貼られてある。


「えっと……その小瓶ってロータスさんから貰ったの?」

「うん! ロータスさんは、これのお陰でアクセルくんの【赤ちゃん】を孕めたんだって……」


 リベットが小瓶に書かれてある成分内容を読み上げている間に立ち去ろうと試みる。しかしリベットに足を掛けられて僕は階段を転がり落ちていった。


「痛ッ――」

「何で逃げるのかな? まあ、今日は私も仕事だから見逃してあげるけど、明日以降は見逃してあげないからね」


 どうやらリベットさんは、ロータスさんに続いて僕の種を欲しがっているようだ。

 もしかすると、近日中に僕は屋敷で知らぬ間に媚薬を盛られて、リベットと初めての肉体関係を持ってしまうのかもしれない。

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