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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第2章 青少年期 九龍城砦黒議会編

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05「五三同盟」


「えっと……アリソンさん。マーサさん。一応紹介しておきますが、彼は三番街の【技巧工房ブラザーフッド】のオーナーを務めるマクスウェル・フッド・スレッジさんです」


 とまあ、彼女たちには必要もない紹介を一応しておいた。

 アリソンさんは目を輝かせながら、「元気にしてた? マックスお兄ちゃん!」と、僕には一度も見せたことがない妹成分たっぷりな顔をして、マクスウェルさんに頭を撫でられてもらっている。

 マーサさんに限っては、マクスウェルさんの隣に居た白髪の黒人女性ナディア・ストームに「会いたかったよナディアお姉ちゃん!」と言い、カウンターに身を乗り出していた。


 どうやら店内の騒ぎに気付いたのか、廊下に居たジェイミーさんも携帯食料を頬張りながら店に戻ってきた。


「ああ、ああ、もうメチャクチャだよ」

「申し訳ないな、ジャックオー。妹たちの面倒を見てくれて本当に助かった」


 マクスウェルさんはそう言って、僕の肩に手を伸ばして大袈裟に感じてしまうほど勢いよく叩いてくる。


「別に構いませんよ。アリソンさんとマーサさんを店で雇ったのは、イザベラ師匠ですから」

「そうは言っても、コイツらを地下水道で助けて、その後の面倒を見てくれていたのは今のお前だろ?」


 彼は戻した手のひらをアリソンさんの頭に乗せ、ペットでも愛でるようにガムシャラに頭を撫で回している。

 アリソンさんの方に視線を送ってみるが、彼女は頬を赤らめていて嫌な素振りを全くしていなかった。


「まあ、助けたのは僕ですけど……」

「それならお前も俺のブラザーだ!」


 マクスウェルさんは彼女の頭から手を離した直後、大きく両手を広げて僕を抱き締めてきた。


「ちょっ……ちょっと!」

「技巧工房ブラザーフッドは身内を助けてくれた者を大歓迎する。妹たちやメビウスの輪の件もあるんだ。俺と同盟を組んでもらえないか?」


 同盟か。今まで考えたことも無かった。

 恐らく、これまでのジャックオーも他の番街の便利屋とは同盟関係を結ばなかったと思う。それに同盟を組むということは、両者がお互いの縄張りを共有することになる。

 つまり三番街の便利屋が五番街に出入りすることになるのだ。


「同盟ですか……」

「ああ、同盟だ。お前が一番気にしているのは、三番街の便利屋が五番街に流れていくことだろ?」


 マクスウェルさんの言葉通りだ。

 五番街は現在、便利屋ハンドマンが市場を独占している。

 その現状が続くからこそ、ジャックオーという存在が神格化され続けるんだ。


「かなり気になります。多分、いや必ず五番街の住人は三番街の便利屋をよく思いませんよ」

「その点は色々と考えてある。三番街の便利屋は五番街に手を出さないと約束しよう。それより俺が便利屋ハンドマンと同盟を組んだ後にやりたいのは、『地下水道都市での縄張りの共有』だ」


「ああ、地下水道都市の話ですか……あの都市の縄張りってどうなっているんですか?」

「今は無法地帯って感じだな。これといった特別な資源が見つかっていない今、他の便利屋たちは物資や食料の運搬に飽き飽きして撤退している」


 確かに彼の言葉は正しい。

 アリソンさんからの勤務報告によると、地下水道都市には僅かな居住区と繁華街が存在していて、至る所に巨大な焦土石と浄化石があるだけだ。

 アンクルシティは九龍城砦が占領する炭鉱や鉱山から、錬成鉱石や石炭を買い取っている。それが地下水道都市で手に入れられれば、九龍城砦から鉱石や石炭を買い取らなくても良いことになる。


 だけど、地下水道都市には問題もある。

 あそこにはダスト軍の兵士でも手に負えない魔物が居るだろうし、そのせいで都市開発が中断する可能性だってある。

 でも、新しいエネルギー源が見つかる可能性もなくはない。

 

「地下水道都市で新たなエネルギー源が見つかれば――」

「そうだ。その時、必ず便利屋同士で縄張りを巡る争いが起こる。そこで俺たちが同盟を組んで以前から地下水道都市で仕事をしていれば、都市に住んでいる住人は俺たちの味方につくって話だ」


 僕はカウンターの丸椅子に飛び乗り、ひと呼吸置いてアルファベットを呟く。


 確かにこの話はとても魅力的だ。

 マクスウェルさんの話によると、三番街に居る便利屋は五番街で仕事をしないようだし、同盟を組むことにもデメリットを感じない。


 だけど何か引っ掛かる。

 僕が疑り深いだけか?


「マクスウェルさん」

「どうした、ジャックオー」


「この話はあまりにも便利屋ハンドマンにメリットが有りすぎる。本当の狙いは何だ?」

「本当の狙いも何もねえよ馬鹿垂れ」


 凄みの利いた声で脅してみたが、逆にマクスウェルさんに頭を『ポンッ』と叩かれた。


「こう呼ぶのは最後にしておくぞ、アクセル。俺は既にお前を『ジャックオー』だと認めている。イザベラが居なくなって以降、お前は学校に通いながら奴の依頼をひとつも欠かさず遂行している」


 僕の真正面にある丸椅子に座り、カウンターに肘を乗せた彼は髪を弄りながら淡々と語り続けた。


「お前がカボチャ型の防護マスクを被らないのは、お前がイザベラを大切な師匠だと思っているからだ。確かにイザベラはジャックオーの名に相応しい女だった。誰もがそう思うだろうし、今も俺はそう思っている。でも勘違いするなよ。俺はお前のこともジャックオーの名に相応しい男だと思っている」


 マクスウェルさんはそう言ってくれた後、僕が着ている服に関して問い掛けてきた。


「どうしてベネディクトのコートを脱いだんだ?」

「いや、これは昨日デートがあって……一応場所が場所だったんで流石に不味いかなと思って脱いだんです」


「そうだったのか。既に誰かが言ったかもしれないが、一応言わせてくれ。お前にあのコートは似合わない」

「残念ですが、マクスウェルさんは二人目です。僕の主治医もコートが似合わないと言ってましたよ」


 彼は放送禁止用語を連呼した後、ジェイミーさんを睨み付けて中指を立てた。


「ベネディクトは最強の便利屋でもあったが、最悪な男でもあった。アイツが生きていたら、ヤツがジャックオーを名乗っていたかもしれない。そうなればアンクルシティは人種差別主義者(レイシスト)で溢れかえっていたに違いない。俺としてはお前がジャックオーになってくれてとても嬉しいよ」

「それはあり得ますね。あの人は男尊女卑な上に魔族至上主義な人でしたから」


 ベネディクトさんはイイ人であったけど、ジェイミーさんの様なイイ人ではない。彼は僕以上に壱番街の風習や掟、多様性に配慮する点に嫌悪を抱いていた。


 その結果、ベネディクトさんは何度も治安維持部隊に捕まり、収容所を出入りしたことがある。それでも彼は壱番街の習わしに意義を唱え続け、果てには彼を注意したイザベラ師匠にまで危害を加えたクズへと成り下がった。


「ところでジャックオー」

「マクスウェルさん、どうしたんですか?」


 周囲に技巧工房ブラザーフッドの皆さんや僕の部下が見守るなか、マクスウェルさんは静かに話し始める。


「お前がベネディクトを始末したのは知っている。それに例の化学物質を操る後天性個性と磁力操作についてもだ」

「ああ、蒸気路面機関車を止める為に見せちゃいましたからね。それがどうしたんですか?」


「本当のことを話してくれ。ベネディクトは魔物に腕を吹っ飛ばされても、数秒後には腕が再生する程の自然治癒力のある化け物だと知られていた。お前はどうやって、あの最強の漢ベネディクト・ディアボロ・ハンドマンを殺したんだ?」

「本当のことですか……」


 目の前には、本当のことを話さなければ容赦しねえ、と言わんばかりの目つきをしたマクスウェルさんがいる。その背後には、彼の部下であるジェイミーさんやナディアさんも居たが、両者とも先ほどとは顔つきが違って真剣な表情をしていた。


 僕の背後にはエイダさんが居て、カウンターの丸椅子にはアリソンさんやマーサさんたちが座っている。

 彼女たちも又、彼らの様に僕がどうやって最強の漢を殺してしまったのか知りたがっていたようだ。


「仕方ないですね。少し話が長くなりそうなので、今日は学校にお休みの連絡を入れおきましょう」


 僕がそう言うと、マクスウェルさんを始めに店内に居た人物たちは、「やっぱりコイツがヤリやがったんだな!」と叫んだり、「あの伝説って本物の話だったのかよ……」と呟いた後、携帯固形食料を頬張り始めた。


 彼らにとっては伝説の話なのだろうが、僕にとってはただの復讐の話でしかない。人に話せる事でもなかったし、誰かに教えるつもりもなかった話だ。


 それから僕は魔術学校に電話を繋げる。するとユズハ先生が対応してくれた。


「ああ、ユズハ先生」

「聞いたぞ。今日は授業をサボるのか?」


「サボるっていうより、仕事で行けなくなっちゃったんです」

「そうか。それなら仕方ないな」


「そう言えば昨日の夜に電話をしてきたそうですが、何の用だったんですか?」

「できれば直接話したい話じゃ。夜頃に店に寄らせてもらうぞ」


 直接話したい話か。

 (リウ)家の電話番と同じ時刻に電話を掛けてきたって事だから、今度の黒議会について何か話したいのかもしれないな。


 等と考えながら、僕は通話を切ってボイラーや食器棚に近づき、人数分のコップとポットを取り出す。そんな事をしていると、「アクセル様。飲み物の準備は私がしますので、貴方は座ってください」とビショップに言われてしまった。


 仕方ない。話す時が来たんだ。

 開口一番、僕はこちらを注目する彼らに向けて、「注目!」と言い、続けて「皆さんの口が軽いのは知っているので、少しだけ話を盛ってお話ししますね」と呟いた。

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