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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第二部 第1章 青少年期 地獄の魔術学校編

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11「粒子の狭間」


 男子学生の右腕と同化した銃は、地上の中央大陸に存在するライオネル社が開発した【Z555B型魔導ライフル】である。

 Z555B型魔導ライフルは通常、カートリッジに装填された魔石のエネルギーを抽出して弾頭を発射する仕組みになっている。しかし彼の場合はそうではなかった。


 劣化した後天性個性により銃と一体化してしまった右腕には、もはやカートリッジを装填する機構すら存在しなかった。


 彼の右腕と同化した機構銃の銃口から、雷鳴が轟く音と共に魔導弾が飛び出す。

 男子学生の錬金術により、発射された魔導弾には【魂の付与】が施されていた。


 客車に雷鳴が轟くような銃声が鳴り響くなか、アクセルは動けない体を無理矢理にでも動かす。自身に目掛けて発射された魔導弾が危険なモノであると知りながらも、彼は音速の速さで弾頭を側面から蹴りあげて軌道を変えた。

 

 魂が付与された魔導弾は軌道を変えて、客車の窓を突き破った。


 アクセルは咄嗟に乗客たちに向けて、「後ろの車両に逃げろ!」と叫び声をあげる。すると叫び声に反応した乗客たちは、牧羊犬に焚き付けられた羊のように悲鳴を上げ、後続の客車へと逃げていった。


「訂正してやるよ。お前の名前を教えてくれ」


 アクセルが男子学生にそう訊ねると、男子学生は「私は魂の錬金術師レンウィル・アレイスターだ」と答える。続けてレンウィルは、自身が『地上に存在するメッシーナ帝国からシティに訪れた者であって、アクセルの敵ではない』と告白した。


「私はキミの敵ではない。この後天性個性は”カイレン”という男に無理矢理与えられたモノだ」


 レンウィルはそう告白するが、アクセルは彼を静観したままだった。


(銃弾を蹴り飛ばしてから妙に足の感覚がおかしい。それにコイツの話が本当なのか判断する材料がない。探りを入れてみるか――)


 アクセルは人差し指を額に置いた後、アルファベットを静かに数えつつも、脳内でロータスやエイダ、リベットのアラレもない姿を思い浮かべる。その後、彼はレンウィルの発言と行動、【神の祈り子】の目的である『収容所にいる仲間の解放』から、今の状況に適合する最高の結末を脳内に描いた。


 彼は両手を挙げながら「お前は幾つもの勘違いをしている」と言い、魔導弾を蹴り上げた足を引きずりながら彼の元へと近づいていく。

 アクセルの右足は、レンウィルの魂と共鳴して一時的に麻痺が起きている。レンウィルはこの魂の使い方を【魂の憑依】と呼んでいた。


「レンウィル。この通り、僕の右足はお前の”何らかの術式”によって麻痺している。だけど、この通り僕は歩けているよ?」

「アクセルは私の魂の一部を掻き乱す程の精神力と魂の持ち主なんだね。でも、その足で次の攻撃は避けられるのかな?」


 アクセルはレンウィルを煽るが、彼もまたアクセルの気分を逆撫でるような口調で語る。

 

 両者は睨み合いながら距離を詰めていくが、先手を打ったのはレンウィルだった。

 レンウィルは手袋をはめた左手を大きく振り上げる。するとそれに呼応して、アクセルの右足に憑依した魂の一部が、彼の体を強引に宙に漂わせた。


 そこに再びレンウィルの魔導弾が放たれる。が、魔導弾はアクセルとレンウィルの狭間で静止したままであった。

 空中に浮かび上がったアクセルは、ただひたすらに彼の方向に掌を向けている。瞳孔は限界まで開いており、彼はジャックオー・イザベラ・ハンドマンが目にした事も無い笑みを浮かべていた。


「あり得ない。こんな至近距離で最高火力の魔導弾を止められる奴なんて――」


 それからレンウィルは何度もアクセルに向けて魔導弾を放つが、どの弾頭も同じように、自身とアクセルの中間地点で静止したままだった。


「お前の敗因は僕の後天性個性が化学物質を操れるだけだと錯覚していた事だ。このまま弾丸を全て跳ね返してやってもいいけど……脳の処理が限界を迎えてきてるからそれは辞めておくよ」


 アクセルがそう言うと、レンウィルは彼を地面に落とした。続け様に彼は視線を落とす。そこには素手を目一杯に広げるアクセルの姿があり、彼は目や鼻から大量に血を流していた。


「アクセル……キミは何者なんだ?」

「僕は便利屋ハンドマンのアクセル・ダルク・ハンドマンだ。金を払ってくれるんだったら、お前の依頼を受けてやっても構わないよ……」

 

 アクセルがそう言うと、レンウィルは後天性個性の能力を解いて、一体化した銃と右腕を分離した。その後、彼は無線機を使って制御室の仲間に連絡を取る。すると蒸気路面機関車の速度は段々と下がり始めた。


「アクセル。キミと話がしてみたい」

「奇遇だな。僕もお前と話がしてみたかったところだよ。言っとくけど僕に芸術なんか理解できないからな?」


 アクセルが能力を解除すると、両者の狭間に浮かんでいた弾丸が廊下に落ち始める。その後、彼は再びガントレットを含めた両手を廊下に着けるや否や、魔術の詠唱を唱えて水の球体を作り上げた。


「何をするんだ? 私にはお前の能力なんて効かないぞ?」

「違うよレンウィル。お前を眠らせるつもりじゃあない」


 廊下に浮かび上がった水の球体に両手を押し込み、アクセルは【臨界操術・噴霧(ミスト)】の術式を発動した。この水の球体にはアクセルが体内で精製した、セロトニンという化学物質が含まれている。

 彼を中心にして広がっていった微小な水の粒子は、空気中に漂いながら乗客や構成員たちの体内に行き渡り、覚醒状態でない人物を睡眠に至らせた。

 それからアクセルはレンウィルに、「足を治してくれ。それとお前の目的に協力してやるが、今回のテロ行為は無かった事にはできない」と伝える。


「分かった。覚悟はしていたが、やはりそうならざるを得ないか……」

「壱番街のど真ん中でテロ行為をしたんだ。それ相応の報いを受けるのが当然だろ」


 手袋を外したレンウィルは、素手でアクセルの右足に触れる。その直後、アクセルの右足に分離したレンウィルの魂の欠片は、彼の手のひらを伝わって体内へと吸収された。

 レンウィルは自身が敵ではないと証明するため、自分の能力が【魂の分離】と【機械との同化】であると明かす。続いて彼は学生服の内ポケットから帝国錬金術師の身分証明書を提示して、自身がメッシーナ帝国に存在する(むくろ)の教団の一人である事を伝えた。


「ああ、骸の教団って例のカルト教団のことだろ。それより『メッシーナ帝国』ってどこだよ?」

「ベアリング王都から随分と離れた場所にある、錬金術の発達した水上の帝国だ。それと骸の教団はカルト教団ではない」


「じゃあ神の竹の子は骸の教団の一部って事なのか?」

「馬鹿か! 神の祈り子だ! それに神の祈り子は潜伏する為の仮の組織名だ。我々は教団内で【人格破綻者】と呼ばれている!」


 彼が性懲りもなく言い間違えるので、レンウィルはZ555B型魔導ライフルを持ち上げる。彼は新たにカートリッジを装填して天井に向けて弾頭を放った。


「あれ? さっきよりは音が静かだな……」

「今のが通常弾だ。それより()()の部下が揃ったようだが、この後はどうするんだ?」


 アクセルの背後には、腕に六芒星の腕章を着けた学生たちが佇んでおり、それぞれが【Z555B型魔導ライフル】を持って銃口を彼に向けている。

 レンウィルの背後には、今にも木製のホームランバット【丸太小屋】を彼の後頭部に振り下ろそうとする中毒者(クラックヘッド)と、変形機構式機械鞄を特殊包丁へと変化させた指導者(ビショップ)の姿があった。


「アクセル様。コイツの脳みそは廊下にぶちまけますか?」

「レンウィル。こんなガキに頼らずとも"カイレン"の情報は見つかるはずだ。ガキはここで始末しよう――」


 両者の部下は互いの敵の上司の頭部に武器を突き付け、凄みの利いた声で脅し合っている。

 レンウィルの同僚である女の一人が「ガキは始末しよう」と言った直後、客車内に車内放送が流れた。


『レンウィル。後続車両の仲間と連絡が取れない。少ない人質では交渉もできないだろう。今回は撤退しよう』


 同僚の女は舌打ちを鳴らして銃口を下げる。その後、レンウィルに向けて「撤退だ。後続車両の仲間の安否を確認するぞ」と言い、その場から立ち去った。


「レンウィル。心配しなくてもいいからな。僕の部下はお前の部下を殺してない」

「そうしてくれると有り難い。近い内にキミの店を訪ねるとするよ……」


 起き上がろうとするアクセルに手を差し伸べるレンウィル。しかしアクセルは彼の手を払い除けて、クラックヘッドとビショップの手を掴んだ。

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