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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第二部 第1章 青少年期 地獄の魔術学校編

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10「神の祈り子」


 ビショップとクラックヘッドを見送ったアクセル。彼がその場で防護マスクであった機甲骸(ボット)を床に置くと、防護マスクは二匹の機甲手首(ハンズマン)に姿を変えて整列した。

 アクセルは二匹の機甲骸(ボット)と戯れた後、指示を待つ彼らに向けて端的な指示を送る。


「悪いけど遊んであげられる時間はあまり無い。すぐに制御室の様子を見にいってくれ」


 彼がそう言うと、二匹の機甲骸(ボット)は手話を用いて『任せてください』と返事をして、客車の壁や天井を這って先頭車両へと向かった。

 

 その場から二匹の機甲手首(ハンズマン)が去った後、アクセルは再びアルファベットを数える。脳内に三人の彼女の卑猥な姿を浮かべると、彼は目を開けると同時に首輪と化したパンプキンに手を添えて、「音声認識。起動しろ『パンプキン』」と呟いた。


「こんにちは、ジャックオー様。何か御用ですか?」


 首輪と化していたパンプキンは機械的な変化と展開をみせて、彼の顔の下半分を覆うカボチャ型の防護マスクへと変化する。

 アクセルはその事を知りながらも、何も文句を言わなかった。それは彼自身もいずれは『ジャックオーという存在』に成らざるを得ないと思っていたからだ。


「防護マスクの事は多目に見ておいてやる。それより問題を解決して欲しい」

「分かりました。どんな問題でしょうか?」


 パンプキンは何世紀にも渡って、『ジャックオーという存在』を支えた霊具である。あらゆる難題を解決してきた彼女にとって、テロ組織を鎮圧させて蒸気路面機関車の走行を止めることなど、赤子の手を捻るように容易な事であった。


 非常事態であるため、アクセルはパンプキンに今の状況を簡潔に伝える。すると彼女は、ジャックオーという存在を存続する上で状況に合わせた最適なアイデアを三つ挙げた。


「最初の案は受け入れられない。助けられる命は救う主義なんでね」


 アクセルはパンプキンが提示した最初のアイデアを拒絶する。

 パンプキンが提示したアイデアは、【臨界操術・再生移動(オーバーレイ)を利用して自身だけ脱出する】という案であった。


「二つ目の案は一つ目よりはマシだ」


 彼は二つ目と三つ目のアイデアの問題と課題を考えた結果、それらが生み出す最高な結末と最低な展開を予測する。

 パンプキンが挙げた他のアイデアは、【臨界操術・光学迷彩(ステルス)噴霧(ミスト)を用いて隠れながら構成員を一人ずつ倒し、機関車の制御室へと向かう方法】と、【アクセルの化学物質を操る後天性個性を用いて、機関車の制御室へと向かう方法】であった。


「よし。構成員とは戦わない。後天性個性と臨界操術を使って機関車の制御室まで向かうとするよ」

「ジャックオー様、お見事です。【化学物質の散布量】に気を付けて下さい。量を間違えれば、乗客は永遠の眠りに就いてしまう可能性が御座います」


 パンプキンの問いかけに「僕は『まだジャックオーじゃないよ』」と、アクセルは答える。彼はガントレットを含めた両手を廊下に着けて、下位魔術の詠唱を唱えた。


「周囲に漂う水の魔力よ、魔のモノの体内に宿る魔力因子に呼応せよ。水の精霊ウンディーネの加護があらん事を祈ります。【水の球弾(アクアショット)】」


 アクセルが詠唱を唱えた直後、水の球体が廊下に浮かび上がった。直径はアクセルの身長と同じ大きさをしている。

 立ち上がった彼が両手を水の球体に押し込むと、後天性個性の効果が球体に付与されて、【臨界操術・噴霧(ミスト)】の術式が発動して球体は霧に変化した。


 その後、霧は瞬く間に客車に充満していき、他の車両へと流れ込んでいった。


「この客車に居る乗客の皆さん。安心して下さい。僕は【便利屋ハンドマンのアクセル】です。僕は今、竹の子の構成員を鎮圧させるために液体を散布しました」


 パニックに陥っていたはずの乗客たちは皆、アクセルが液体を散布した直後から静まり返っている。

 彼が臨界操術・噴霧(ミスト)によって散布した液体には、アクセルの体内で精製したセロトニンという化学物質が含まれていた。


 通常、セロトニンは空気中に溶ける事がない。しかしアクセルは水の球弾(アクアショット)にセロトニンを含ませて、【臨界操術・噴霧(ミスト)】を用いて球体を微小な粒子へと再錬成した。それによりセロトニンを含んだ粒子は空気中に漂い、乗客や構成員たちの体内に行き渡った。


 落ち着きを取り戻した乗客たちに、アクセルは状況を伝える。


「現在、僕の部下が後続車両に居る乗客の保護と構成員の拘束を行っております。どなたか外部と連絡が取れる方は居ますか?」


 アクセルがそう言うと、一人の若い男性が名乗りを挙げた。


「私は三番街で記者をしている者です。魔術学校に居る娘と特殊な魔導具で連絡が取れます」

「分かりました。では、貴方は娘さんやダスト軍に『機関車が乗っ取られたこと』を伝えて下さい。それと他の乗客の皆さんは、後続車両に居る部下の元へと向かって下さい。その方が安全なので――」


 彼が乗客を後続の車両へと誘導しようとした瞬間、前方車両から雷鳴の様な銃声が鳴り響く。

 乗客達は身体が硬直し、身動きが取れないでいる。しかしアクセルは咄嗟に脳内のアドレナリンを調節をして、体を無理矢理にでも動かした。


 彼が視線を向けた先には、機械の銃と自身の右腕が同化してしまった男子学生が銃を構えている。彼の腕には【六芒星】の刺繍が施された腕章が着けられていた。


 アクセルは男子学生の姿と銃の形状、雷鳴のような銃声から情報を整理して、彼を刺激しないように説得を試みる。


(今のはコイツが放った銃声か? それにしては音が落雷の様だった。銃の形状も見た事がない物だ。弾の供給は錬成鉱石からのエネルギーなのか? いずれにしても、コイツは危険過ぎる――)


「僕は便利屋ハンドマンのアクセルだ。キミは組織のリーダーかい?」

「そうだ。名前は――」


「いいよ。別にキミの名前になんて興味無いから。それにしても、見事な右腕をしているね。僕は芸術ってサッパリなんだけどさ。キミのは凄く美的センスがあると思うよ!」

「我々の芸術を理解してくれるのか?」


 それから男子学生は、右腕と一体化した銃に彫刻された細かいエングレーブを熱く語りだした。

 

「うんうん。やっぱり銃ってのは、その人の美的センスが出ちゃうもんだからね。ところでさ。その右腕と銃ってくっついちゃってるけど痛くないの?」

「物凄く痛いさ。だけど我々【神の祈り子】は、この後天性個性を『彼ら』から与えてもらったんだ。だから私たちは結果を出さなくちゃいけない。アクセルも協力してくれないか?」


 男子学生の言葉に自分の耳を疑い、アクセルは彼に『どうして後天性個性の事を知っている?』『彼らとは誰なんだ?』といった質問を投げ掛けた。


「この後天性個性は武器と体を一体化する能力なんだ。使いこなせるようになれば、もっと大きな武器と一体化できるかもしれないんだ!」

「ふーん。武器と同化っつうか、【機械と同化する後天性個性】って感じか。キミの目的は収容所に居る仲間の解放だっけか?」


 男子学生が頷いた直後、アクセルは『幸運を祈れ(グッドラック)』と口ずさむ。しかし男子学生はその瞬間、天井に目掛けて魔導弾を放った。


 客車内に再び激しい雷鳴が轟く。その後、男子学生はアクセルに銃を向けて、「キミの【化学物質を操る個性や身体機能を大幅に向上させる能力】は知っているよ」と叫んだ。


(コイツは面倒な相手だ。手の内を知られているようだし、随分と脳がハイになっているせいなのかセロトニンが効いてなさそうだ)

 

「おい神の竹の子野郎。話を聞いてやったんだから質問に答えろ。お前に能力を与えた奴ってのは誰だ?」


 銃と右腕が一体化した男子学生は、「我々は竹の子ではない神の祈り子だ!」と叫び、ライオネル社が製造した特殊な機構銃をアクセルに向け、三度目の魔導弾を放った。

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