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便利屋ハンドマン-HandMan-  作者: 椎名ユシカ
第二部 第1章 青少年期 地獄の魔術学校編

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09「最凶の二人」


 指導者(ビショップ)中毒者(クラックヘッド)という二体の屈強な体格の男性型機甲骸(ボット)を引き連れていたアクセルは、店を出て蒸気型路面機関車を乗り継いで魔術学校へと向かった。

 アクセルは彼らに桜華(ブロッサム)というホバーバイクに乗って魔術学校へ向かうと言ったのだが、便利屋ハンドマンの従業員や七つの機甲骸(セブンス・ボット)がそれを許さなかった。


 彼の意見に反対したのは、彼以外の全ての者たちだった。

 

 ジャックオー・イザベラ・ハンドマンが(むくろ)の教団に入団してから二ヶ月しか経っていないが、従業員や機甲骸(ボット)、五番街に住むスラムの住人たちは『アクセルは既にジャックオーを名乗る存在』であると認めていたのだ。

 アクセル自身は気付いていないが、スラムや安全な区画内に住む住民たちは皆、彼がこれまで行ってきたシティへの貢献とスラムへの援助の限りを知っている。

 そのため、五番街に住む誰もが『アクセルがジャックオーを名乗り始める日』を心待ちにしていたし、『カボチャ型の防護マスク』を被り五番街を闊歩することを願っていた。


 アクセルは店での出来事を思い返し、路面機関車に揺られながらベンチ式の座席に座り続ける。彼の目の前の席には、二体の屈強な体格の男性型機甲骸(ボット)が腕を組んで座っていた。

 二体の機甲骸(ボット)は視線をキョロキョロと動かし、客車に異常がないか確かめている。

 蒸気路面機関車は魔術学校の一駅前で停車すると、数十人の男女を乗せて走りだした。彼らは皆、共通して腕に【六芒星】の刺繍が施された腕章を着けている。


 ビショップとクラックヘッドはこの事に気づいていたが、アクセルは気づいていなかった。


(店の従業員もコイツらも大袈裟すぎる。ジャックオー師匠が居なくなったからといっても、便利屋ハンドマンが襲撃される訳ではない。それにこの数ヵ月間だって命を狙われる事なんて全くなかった。ビショップやクラックヘッドは『必ずアクセル様の命を狙う者が現れます』と言っているが、それが本当なのかは定かではない。それに僕はコイツらが思っているほど弱くはない)


 等とアクセルが考えていると案の定、路面機関車が急加速し始めた。

 その直後、客車に備えられたホログラム装置に乱れが生じ、壁に備え付けられた緊急ランプが赤く点滅する。


 アクセルがクラックヘッドに視線を送ると、彼は「何で俺を見るんですか。俺は何もしてないっすよ!」と言い返す。


「本当か? お前はハンズマンの頃からイタズラばかりしてたからな……」

「いや、あれはアクセル様に俺がメッチャすげえ存在だってアピールしたくてやったモノであって――」

「黙れ中毒者(クラックヘッド)。お前の声がデカくて車内放送がよく聴こえん」


 中毒者(クラックヘッド)に注意を促す指導者(ビショップ)。そして二体の機甲骸(ボット)はベンチから(おもむ)ろに立ち上がり、一方は廊下の様子を警戒しながら変形機構式機械鞄をバスターガンに変化させ、もう一方は顔を覆っていた紙袋から質量を無視した木製のバットを取り出した。


 クラックヘッドが被る紙袋の覆面には、イザベラが使用した空間魔術と同じ術式が施されている。これはルミエルがアクセルのアイデアを受け入れ、武器や小物を運ぶ際にクラックヘッドの紙袋を利用したいと願ったからだ。


 木製のホームランバット【丸太小屋】を肩に担ぎながら、クラックヘッドは座席から廊下の様子を伺う。ビショップはバスターガンを構えながら、彼とは反対側の方向の廊下の様子を見ていた。

 その直後、客車の全てに行き渡るように車内放送が流れ始めた。

 

『この蒸気路面機関車は我々【神の祈り子】が占拠した。我々の目的は収容所に収容されている仲間の解放である。お前たち乗客は人質だ』


 アクセルは新たに台頭した反政府組織の車内放送を聴き、その場で小さくアルファベットを呟き始める。


(大丈夫だ。落ち着こう。イライラしちゃだめだ。キレても良いことは何も起こらない。アルファベットを数えて、脳内を魅惑的なお○っぱいで満たすんだ)


「ビショップ」

「はい、アクセル様」


 彼は廊下の様子を見ていたビショップに端的な指示を送った。


「お前とクラックヘッドは後続の客車に居る【祈り子】の構成員の拘束と乗客の保護だ」

「拘束と保護ですね。万が一戦闘になった場合は?」


 ビショップはバスターガンに視線を落として、アクセルに訊ねる。

 すかさずアクセルは彼の質問に答えた。


「これは【殺しの依頼】じゃあない。拘束を優先しろ。緊急時の判断はお前とクラックヘッドに任せる」

「……了解しました」


 それから直ぐにアクセルはビショップとクラックヘッドに、蒸気路面機関車が辿り着く最終駅が魔術学校である事を説明した。

 

「最終駅は魔術学校の校内だ。【祈り子】だが【竹の子】だが知らないけど、このまま蒸気路面機関車の速度が上がり続ければ魔術学校に突っ込む可能性がある。その前に構成員を拘束して機関車を止める必要がある」

「アクセル様。幸運を祈ります(グッドラック)


 ビショップとクラックヘッドは、アクセルに向けて親指を突き立てて祈りを捧げる。その後、クラックヘッドは木製のバット【丸太小屋】を引き摺りながらビショップの前を歩き、ビショップはバスターガンに内蔵された聖赤結晶238のエネルギーを遮断して、タクティカルベストからマガジンを取りだしセットした。


 騒然とする乗客に対して、ビショップは「落ち着いて下さい。私たちは【便利屋ハンドマン】のアクセルの部下です。これからテロ組織を鎮圧します」と(なだ)める。それでも乗客は落ち着いて居られなかった。


 壱番街でテロ行為が行われる事は滅多にない。それはテロを起こす側にもメリットが無いからだ。

 治安維持部隊やZ1400型蒸気機甲骸(スチームボット)、ED5000型機関銃搭載二足歩行機甲骸(ボット)やドローン等が徘徊している壱番街でテロ行為を起こすという事は死を意味する。


 混乱のあまり、一人の女学生が泣き出してしまった。その泣き声に共鳴して客車に居た全ての乗客がパニックに陥る。


 再度ビショップが乗客を宥めようとした瞬間、クラックヘッドは持っていた木製バッド【丸太小屋】で、壁に掛けられた広告入りのガラスケースをぶっ叩いた。


「俺たちはよお。別に人間を守るために生み出された存在じゃあねえんだわ。そこんとこ勘違いすんじゃあねえぞ。AIだって女の子にムラムラするし胸糞悪い展開にはイライラするんだわ。そこんとこ宜しくな」


 凄みの利いた声で脅す中毒者(クラックヘッド)

 彼が担いだ木製のバットには、【プラトニックな愛】という文字が書かれており、そのすぐ側には谷間を晒した卑猥な小悪魔のステッカーが貼られている。


 彼のただならぬ殺気に怯え、客車に居た乗客は静まり返った。

 クラックヘッドは、ビショップの丁寧すぎる態度では乗客を大人しくさせられないとみていた。


「こういうのは俺の得意分野だ。お前の出る幕じゃあねえよ」

「悪いなクラックヘッド。だが、お前はいつも詰めが甘い――」


 彼の予想は的中していた。が、クラックヘッドの予想を越える事態が起こる。彼の背後に【六芒星】の刺繍のマークの腕章を身に付けた女学生が回っていた。


 ビショップはその事実を【三本の赤いレーザーを放つマスク】で瞬時に認識する。

 彼は咄嗟にバスターガンの銃口を天井へ向けると、入射角と反射角を判断して女学生の頭部に弾丸が命中するよう、バスターガンのトリガーを躊躇いなく引いた。


「クラックヘッド。また乗客が騒ぎ始めるぞ……お前の出番だな」

「……んだよ。あんなに立派な演説は二度もできねえってのに――」


 クラックヘッドは女学生を壁に寄り掛からせ、開いたままの目をそっと閉じる。

 彼が徐ろに「悪いなお嬢さん」と呟くと、緊張の糸が途切れた乗客達は再び叫び始めた。

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