10「続・便利屋ハンドマン」
16歳の誕生日を迎えたその日。僕は人生のゴールと称していた『ホムンクルスとのイッパツ』をやり遂げた。
夢にまで描いたパワードスーツの軍隊も目前に迫っているし、生産ラインを確保した事で機甲手首たちは際限なく増え続けている。
この異世界の性事情においては小さな一歩かもしれないが、僕のような多くのエロジャンルに手を出した未来ある健全な若者には、機械と融合した究極の生命体とのイッパツは大きな一歩だった。
錬金術で合成された人工皮膚なる物は、赤子のように滑らかな物だった。
エイダさんの話によると、ホムンクルスの体の表面にある人工皮膚は、体内にある聖赤結晶238を聖赤結晶235に変化させる事で、老化現象が起こらない仕組みになっているため、赤子のように滑らから肌であり続けるとのこと。
僕が彼女の背中を指先で素早くなぞると、エイダさんは「私はペットではありません。撫でるのなら背中ではなく、頭にして下さい」と言ってきた。
うつ伏せで寝転がる彼女の隣で寝転がり、僕はポンコツホムンクルスの小言に従わず乳房へと手を伸ばす。
すると彼女はひどく驚きながらも僕を睨み付けて、「プレイ時間は終了しました。コンティニューするのであれば、コインを投入してください」と言った。
「有料コンテンツかよ……」
「彼女になったからといっても、タダでヤらせるとは言っていません」
「なんとも世知辛い世の中だな。魔導骸にお酒でも持ってこさせるけど、エイダさんも飲む?」
「お酒は構いませんから、今後のお店の方針の事を話し合いましょう」
「すっかり賢者タイムだな。普通はこういう時って男の方がカッコつけるんじゃないか?」
「先輩は私を処女だと勘違いしてませんか?」
「お前、処女じゃないのか!?」
「まあ、処女ですけどね……」
なんなんだよ! と、ツッコミを入れた後、僕は床に落ちていたトランクスを拾い上げてそのまま足を通す。床に落ちていたアームウォーマーを操作して魔導骸に酒を持ってくるよう指示を送ると、妙に聞き慣れた女性の声で「すぐにお持ちします」と返事が返ってきた。
エイダさんがそう言って裸のまま起き上がったので、僕は彼女の上半身についたダブルメロンに目が釘付けのまま、「分かった。僕は今日から便利屋ハンドマンの『オーナー店長』だからな。従業員の声に耳を傾けるのが僕の仕事だからな」と言って、サムズアップをした。
彼女は自身のたわわなダブルメロンに視線が行っている事に気付いていたようだが、僕が向けた親指に指を差して「それはフィグ・サインです。女性を侮蔑する時に用いるサインですので気を付けた方がいいですよ」と言ってきたので、僕はそれを理解したままフィグ・サインを送り続ける。
「サインの事は別に構わないから仕事の話をしよう。まずは服を着てくれないか?」
「別に裸でも構わないじゃないですか。そんなに私のおっぱいが気になりますか?」
「何処に目を向けれないいのか分からなくなるからね」
「分かりました。仕方ないので、下着だけは着てあげます」
僕はその場で後ろを向きながら話し続ける。
便利屋ハンドマンは複数台の浮遊型蒸気自動車を停めるスペースもあれば、改造蒸気浮遊車を停める場所も存在している。
店内に関しては最低限の生活環境が揃っているし、少人数の作業スペースには問題が全くない作りになっている。
しかしそれでも、今後の事や従業員の確保、増員となると話が全く変わってくる。
便利屋ハンドマンという店を解体するつもりは全くないが、今のままだたと業務の拡大ができないままだった。
その旨をエイダさんに伝えると、彼女は「確かに今の店の状況では、大幅な業務の展開や新しい事業に手を出す事は無理ですね」と答えてくれた。
「便利屋ハンドマンの営業を続ける為には、『錬金術の免許』を取得した人物と『蒸気機関技師免許』を取得した人物が最低一人は必要なんだ」
「じゃあ、その点に関しては私とアクセル先輩でなんとかなりそうですね」
「まあな。だけど、ジャックオー師匠は自分が居なくなる未来を想定して、『僕に魔術師としての免許を取得させようと』していたと思うんだ」
「なるほど。そこが新たな便利屋ハンドマンの『新事業』って事ですね」
「うん。具体的にどんな依頼をやるのかは分からないけど、魔術師としての免許さえ持っていれば、ちゃんとした依頼が受けられるからね」
「ジャックオー先生が地上へ行ってしまった事を他の方に報告するのは、先輩の店長権限でなるべく遅らせておいて下さい」
報告を遅らせる? どういう事だ? こういう時は皆で団結して協力し合って危機を乗り越えるんじゃないのか?
僕はそう考えながら、思考を働かせる為に『幸運を祈れ』と呟こうとしたが、「その後天性個性には寝られないというデメリットが存在します。これから便利屋ハンドマンや三人の彼女を支える彼氏が能力に頼り過ぎるのは見ていられません」とエイダさんが言ってきたので、能力を使うのはやめた。
エイダさんに「なんで報告を遅らせるんだ?」と訊ねると、彼女は目を細めて答えてくれた。
「ジャックオー先生は言わば、五番街の『核兵器』です」
「師匠が核兵器?」
「はい。核兵器並みの彼女という存在が五番街にあったからこそ、他の番街の便利屋たちは五番街に手を出せなかったんです。その彼女が五番街から居なくなったと知ったらどうなると思いますか?」
「なるほど。五番街が荒れ果てるな。最悪の場合、他の同業者が五番街に店を出し始めるし顧客も流れていく」
「その通りです。この問題を解決する手段は、アクセル先輩。貴方がジャックオー先生を越える存在になる事にあります」
「すぐには無理そうな話だな」
エイダさんはそう言ってガッツポーズをとる。
その動きに連れて体についたダブルメロンが右往左往に動いていたが、僕の目はメロンにではなく床に釘付けだった。
彼女が言っていた『ジャックオー師匠を越える存在』。そんな存在に果たして僕が成れるというのか?
彼女は尊敬に値する人物だ。
憧れの人物であっても目標とする人物ではない。
越えられる人物でもないし、越えて良い存在でもない。
むしろ越える事すら烏滸がましいとさえ思ってしまう程にだ。
そんな事を考えていると、扉のノックの音が聞こえてきた。
僕は何も考えずにトランクス姿のまま、酒を持ってきた魔導骸を出迎えようとしたが、扉を開けた先にいたのは女教師のコスプレに身を包んだロータスさん、私物の学生服と仕事着である白衣を羽織ったリベットだった。
二人はへべれけになりながらも片手にシャンパンが入ったボトルを持っており、ロータスさんは「ここにエイダが居るんだろう……隠れてないで出てこいよ」と言って、再び酒を煽った。
「さ、さあ。何処に居るんですかね?」
「アクセル。隠しても無駄だぞ。お前も家族にしてやる」
ロータスさんはそう言って、僕の顔面にファミリーパンチをぶっ放してきた。
威力は絶大な物で、僕はその勢いで部屋の中央まで吹き飛ばされる。
部屋に突入して来たロータスさんとリベットは、「やっぱり、しっぽりとヤってんじゃあねえか」「ズルいですよ、エイダさん。私はまだだっていうのに!」と言って、僕の体に馬乗りになって殴る蹴るといった御褒美をプレゼントしてくれた。
下着姿のエイダさんに限っては、気まずそうにしながらも恥じないながら「先手必勝です。勝てば良かろうなのだ!」と言って、自慢げに体についたダブルメロンを下から持ち上げて、彼女達に見せつけていた。
これから僕はポンコツホムンクルスとケモ耳ヤンデレ娘、ムチムチ軍人お姉さんと一緒に異世界で人生を歩んでいく。
ルミエルさんからの協力要請の為にも後天性個性の力を強くしなきゃいけないし、ジャックオー師匠がルミエルさんに着いて行った事で便利屋ハンドマンには危機が訪れている。
アンクルシティの問題、魔術学校の件や事業の拡大、自称元魔導王と約束した『魔導王討伐の依頼』の為にも、僕はこの異世界に身命を賭してでも問題を解決してみせる。
第一部完




