10「秘密の部屋」
それから僕は玄関口から屋敷内に入り、二人の彼女に男のロマンを語りながら部屋を案内する。
その際、彼女たちに知られては不味い部屋も紹介するべきか少し悩んだが、その部屋を紹介するのは後日にすると決めた。
屋敷は三階建ての鉄筋コンクリートで建築されている。
屋敷の玄関口に進むと早速、ルミエルさんが派遣してくれた老執事型の魔導骸と複数体のメイド型魔導骸が出迎えてくれた。
ロータスさんが「誰なの、この人たちは」と訊ねてきたので、僕は正直に「彼らはルミエルさんに派遣していただいた魔導骸というお世話係です」と答える。
僕がルミエルさんに三つの条件を提示した後、実はルミエルさんからもひとつだけ条件を提示された。
条件の内容は、『屋敷を作ってあげますが、私が信頼している従者たちを屋敷に住ませてあげて下さい。それと貴方の女にはキチンと全部説明すること』といったものだ。
当初は条件を提示している側なのに新たな条件を提示されるのに納得がいかなかった。
それに魔導骸という存在が危険なモノだとも思っていたし、スチームボットとは違って感情を持っていると言われたので、何らかのトラブルになりかねないとも思った。
だが、僕が彼女に『何らかの協力』を要請される事を考えた結果、僕はルミエルさんに「条件は飲みますが、その従者たちにトラブルを起こさせないと約束してください」と言い、その結果僕は従者たちを受け入れる事にした。
僕は老執事の姿をした魔導骸に向けて、「彼女たちは僕の大切な存在だ。絶対に条件を守れよ」と言うと、彼は小さく頷いて、本物の紳士を彷彿とさせるように胸に手を当てて頭を垂れた。
「念のため聞くけど、キミ達には名前があるのか?」
「ございます。私の名前は、ヴィクトルで御座います。ルミエル様の指示に従い、これから私たち従者は貴方様の身の回りのお世話を致しますので、よろしくお願いいたします」
老紳士は自身をヴィクトルと名乗り、彼の背後で整列していたメイド型の魔導骸を紹介してくれた。
彼女たちは皆同じような顔をしていたが、一人だけ妙に低身長で胸にたわわなメロンをぶら下げたメイドがいた。
僕はロータスさんとリベットさんに「適当に部屋を見てて良いよ」と伝えると、彼女たちは数人のメイドを引き連れて屋敷を見回り始めた。
その後、僕はその妙に低身長で青空を彷彿とさせる髪色をしたメイドの目をジッと睨み付ける。
するとそのメイドは、キョロキョロと視線を動かして額から汗を流し始めた。
呆然としながらも溜め息をつき、僕はメイド服を着たポンコツホムンクルスメイドに向けて、「どうして僕の家に居るんだよ」と訊ねる。
「ワタシはただのメイド型エリート魔導骸です」
「バレバレなんだよ。ポンコツエリートホムンクルスメイドさん」
「流石ですね。私の完璧な変装を見破るとは――」
「家にまで着いてきたってことは、何か用でもあるのか?」
僕がそう訊ねると、エイダさんは「実は……」と言って、話し始めた。
どうやらエイダさんは、僕がルミエルさんに屋敷の建造を依頼していたのを知っていたらしい。
地上に居た魔導骸からチップを奪ったのは彼女だ。
チップを解析できなかったとしても、その時の状況や敵の機体の姿形といった情報を共有するために、ルミエルさんと接触する機会があったのだろう。
ただの推測でしかないが、エイダさんはルミエルさんから『僕が新しい屋敷に住む』という事を聞いたのかもしれない。
情報源はルミエルさんで間違いないだろうが、どうしてここにエイダさんが居るんだ?
「ルミエルさんがバラしたんだろ。それでどうして僕の家に居るんだよ」
「えっと、店で寝るのも我慢できるのですが、どうせ寝るのなら大きなベッドで眠れたら良いなと思いまして……」
「なるほど、なるほど。つまり、エイダさんは店にあるベッドで寝るのが嫌で、丁度僕の家が広くて完成したばかりだから、ここに住もうと思ってるんだな?」
「察しが良いですね。その通りです!」
メイド服姿のエイダさんが勝ち誇った笑みを浮かべた後、僕は彼女の頭に目掛けて鉄拳を振り下ろす。
彼女に「二人も彼女が居るのに、お前まで住んだら絶対にトラブルが起きるんだが!」と叫ぶと、彼女は胸を張って生意気そうに指を振り、「アクセルさんは『アテナの十戒』を気にしているんですよね。それなら問題はありません。リベットさんとロータスさんから許可を頂きましたから」と言ってきた。
エイダさんの話によると、リベットは便利屋ハンドマンの店内を見た瞬間、「ここは人が住める場所ではない。危険な物が多いし最悪な環境だ」と感じたそうだ。
それからリベットは後日、エイダさんに「良かったら魔術学校の女子寮で寝ませんか? ロザリオさんも単位を落として留年してしまいましたし、トゥエルブ先生からは『診療所で働いてくれるのなら、どこに住もうが構わないよ』と言って頂いているので、私も暫く女子寮に居る予定なんです」と相談を持ち掛けたらしい。
ここで断れば良いだけの話なのだが、エイダさんはリベットに「実は、アクセル先輩が新しく家を建てるようなんです」と言ってしまったそうだ。
人差し指を突き合うエイダさんに向けて、「じゃあ、リベットもロータスさんも、この屋敷の存在を前から知ってたって事か?」と訊ねる。
すると彼女は、「あ、そういう事になっちゃいますね」と言い平然としていた。
確かに便利屋ハンドマンの店内は、人が住める環境ではない。
危険な工具や修理品といったモノが管理されているし、オマケにベッドに限ってはひとつしかない。
今までそのベッドは僕とエイダさんで交代して使っていたが、確かに寝心地は最低と言っても過言ではない。
エイダさんは大袈裟に感じるような泣き声をあげながら、時折り黙って僕の方に視線を送ってくる。
僕が何も言わずに呆然としていると、彼女は再び大きな泣き声をあげ始めた。
「分かった、分かった。キミを家に住ませてやってもイイ――」
「ありがとうございます!」
「が、ただし条件がひとつある。その条件を守ってくれるのなら、僕は何も言わないよ」
「良いでしょう。どんな条件でも飲んであげます!」
「キミはこの屋敷では僕の『ペット』として飼わせてもらう」
「最低なんですけど。人権問題を通り越してペット扱いって最悪なんですが」
エイダさんが威勢よく返事をしたので、僕は「じゃあキミの体を分解させて欲しい。それがキミに課せられた条件だ」と、声高に言った。
すると彼女は、「多様性に配慮するべきです」「ホムンクルスにも人権があります」「女性に優しい社会を作ってください」と言い、不服そうに口を尖らせた。
「冗談だよ。部下の面倒を見るのも店長の仕事だからな」
「じゃあ、それなら――」
「だがな、僕にだってプライベートが欲しいときもあるんだ。それさえ邪魔しなければ、好きにしていいよ」
「やったー!」
歓喜の声を上げながら走り回るポンコツホムンクルスは、屋敷の中央にある階段を駆け上がって何処かへ行ってしまった。
その場に一人だけ残された僕は、腕に備え付けられたアームウォーマーを操作して、ホログラムと化した屋敷の見取り図に目を凝らす。
地図には僕を指す青い点や女性を表す赤い点、魔導骸や機甲手首を指す黄色い点が至るところに点在している。
ルミエルさんに建ててもらった僕の屋敷には、ルミエルさんが知る限りの魔術や錬金術といった術式が施されており、並びに最新鋭の防犯システムや電力をエネルギーとする家具が配置されていた。
それから少しした後、僕は発電機のある地下室へ続く階段を降りた。
地下室には複数台の大型の発電機や、燃料となる特殊な錬成水が入れられた貯水タンクが存在している。
その他にもボイラーや復水器といった物があったが、それらには目を向けず、僕は『チップをくれた御褒美です。汚い字で読むのに苦労しましたが、メモに書かれた物は全て部屋の中にあります』と書かれた張り紙に視線を送る。
張り紙を剥がして心を浮き立たせながら扉を開けると、そこには僕が待ち望んでいた『プライベートルーム』が存在していた。
壁際には本棚が置かれており、機械工学や機械学習といった類の本が並べられている。
視線を部屋の中央に向けてみると、そこには作業に必要な工具や店にも保管しているスチームボットやホムンクルスの細かい設計図が置かれてあった。
僕が「夢の空間だ。この場所ならハンズマンやパワードスーツの改良に専念出来るし、誰にも邪魔される事はない」と言うと、部屋の外から「アクセルくーん」「アクセル先輩!」「アクセルはここには居ないみたいね」といった女性たちの声が聞こえてきた。
今日は無理そうだな。ルミエルさんには感謝しないといけない。
協力要請がどんなものかは分からないが、ここまで用意してくれたのだから期待に応えるべきだろうな。
等と考えながら、僕は二人の彼女と一人のポンコツホムンクルスが去ったのを確認した後、地下室から屋敷の一階へと戻った。




