第96話:店主のお兄さん
「──そんな感じで、ぼくはきっと、あの高校生のお姉さんに憧れていたんだと思います。『恋』ではなく『憧れ』。普段接することのない年上女性への憧憬です。考えれば考えるほど、恋とは別物だったんだなあと今では思います。テレビでアイドルを見ているような、そんな感覚なんじゃないでしょうか。そんなことに気付くまで、二年もかかっちゃいました。ぼくはそう思ったんですけど、店主のお兄さんはどう思いますか?」
ぼくが店主にそう聞くと、彼は「……君は大人だねえ」と、おかしなことを言った。
「子供ですよ。子供だから、分からないことがたくさん溢れているんです。だから身の回りの大人の中で、一番クールで大人っぽいと感じた店主のお兄さんに相談したんです」
「人を見る目は、まだまだ鍛えた方がよさそうだけれど……。そうやって自分に起きた出来事を冷静に分析して、前を向こうとする君は、大人だよ」
少なくとも俺の十三倍は大人だよ、と店主は、やけに具体的な数字を用いて言った。
「君の言うことには、心の底から同意するよ。本当に、その通りだと思う──おっと、電話だ。じゃあ少年、またのご来店をお待ちしてます」
店主のお兄さんはぼくに手を振ってから、ポケットから取り出したスマホを耳に当てた。そして「おう、久しぶり」と、店の奥へと去ってゆく。その後ろ姿を少し眺めてから、ぼくは買った消しゴムが入った小さなビニールを持って、佐野文具店を後にした。




