第95話:馴れ初め
「貴子。ずっとお前が好きだった。結婚を前提に、俺と付き合ってくれないか」
そんな一世一代の告白を、夜景の見えるレストランなんかで行えたらよかったのだけど、俺たちが今いるのは実家近くにある公園の、ブランコの上だった。堅苦しい場所で正装に身を包んで相対するには、俺たちは互いの恥ずかしい部分を知り過ぎていた。
「……ずっと前にした『三十路になってもお互い独り身だったら結婚しよう』っていう冗談みたいな約束の期間には、まだ二年以上もあるけど。ちょっと、早いね?」
「俺は二十年前から貴子のことが好きだったから、遅すぎるぐらいだよ」
実家が隣同士で、クラスもずっと同じで、絵に描いたような幼馴染だった貴子。絵に描いたように不器用だった俺は、今の今まで彼女に本当の気持ちを伝えられなかった。
少し困ったようにうつむいた彼女に「……嫌、か?」と問う。
「嫌ではない、けど……。前も話したけど、私、バリバリ夢追い中だよ?お金、とか」
「俺が養う。養うし、応援する。そのために俺は、安定的で堅実な仕事をしてきたんだ」
そっか、そっか、と繰り返し呟く貴子。少しして、彼女は思いついたように言った。
「あなたと結婚したら、私のイニシャル、『TT』になっちゃうね。泣いてるみたいだ」
「涙が止まらなくなるぐらい、これからTシャツをたくさん買おう」
どういうフォローなの、と貴子は笑った。笑ってから、泣いた。




