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第91話:ローズの香り

 最後に澤谷と会ったのは、中学校の卒業式か。成人式で再会した澤谷は相変わらず人の良さそうな顔をしていて、でも身体はたくましくなっていた。その隣には、せっかちなあの子。澤谷とは違う高校に進学したのに、まだ付き合い続けていたとは驚きだ。

「……文化祭のステージで歌う澤谷、かっこよかったよなあ」

 切ない想いが溢れそうになったけれど、鼻腔をくすぐるローズの香りが私を安らかな気持ちにさせてくれた。入浴剤なんて普段は使わないけど、なんだか落ち着く気がする。

『こ、これ。バスソルト。よかったら使ってよ。多分元気でるよ、多分』

 二次会の帰り道。キャパ以上の飲酒の影響で、私は道端でうずくまっていた。そして人目も憚らずに泣いていた。そんな時に見知らぬスーツ姿の男性から貰ったのが、今使用しているバスソルトの詰め合わせだった。あの人がなぜ私にこれを贈ったのかは分からないが、そんなことはきっと、分からなくていいのだろう。その贈り物が今、私の心を優しく撫でてくれている。その事実に、今はただ寄り添っていればいい。

「……合コン、かあ。乗り気じゃなかったけど、試しに行ってみようかな」

 お風呂上がりに、私は友人に返信した。いつまでも過去に縛られているのは疲れた。そろそろ前進してもいいだろう。そうやって進み続けて、今度こそ私は──中学時代と変わらず私に笑顔で接してくれた澤谷たちに、心からの笑顔で向かい合ってやるのだ。

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