第88話:通りすがりの通り魔さん
願いが叶ったら嬉しいと思うよね? うんうん、わかるわかる。私もそう思ってた。今日までは。初めて知ったんだけど、願いというやつは『叶い方』が大事らしいよ。
「動くんじゃねえ。大人しくしろ」
私の願いはただ一つ。素敵な彼氏が欲しい、それだけだ。その願いが叶わな過ぎて、妄想上で練り上げた彼氏と、しりとりを楽しんだりしてますけども。しかしその願いがなかなか叶わなかったとはいえ、『誰でもいいから、私を熱烈に求めてくれる男が現れますように』と理想を下げたのは良くなかった。確かに私は、誰でもいいと思った。
でもその相手が──通りすがりの通り魔さんなんて、思わないじゃないですか。
ちょこっと理想を下げただけで、仕事帰りの私に刃物を向けて卑猥な要求をしてくる男とマッチングするなんて、神様そりゃあんまりってもんですよ。マッチングアプリの方がまだマシですよ。アプリでは変な男と出会うことも多々あるけど、少なくとも通り魔さんとマッチしたことはないんだよなー。なんて、軽妙な語り口で神様を恨んでる場合じゃ、ないよなあ。今こちらを向いている、あの包丁で刺されたら痛いだろうなあ。
死にたくは、ないよなあ。死にたく──ないなあ。
あーなんか、ムカついてきたわ。神様とかいう趣味の悪い偏屈ジジイに頼ってる場合じゃない。絶対に生き延びて、幸せになってやる──そんな想いを込めて、私は叫んだ。




