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第83話:破れた夢を

 試し書きコーナーに落書きをしていたことは、迂闊だったと言わざるを得ない。デパートの文具店で遭遇した同僚の「絵、お上手なんすねー。漫画描いてたりとかするんですか?」という言葉に、私は「昔、ちょっとだけ。もう諦めましたけど」と答えた。

 私は以前、プロの漫画家を志していた。それを他人に話す気はない。なぜなら──

「えー、もったいない! そんなに上手いんだから、諦めちゃダメですよ」

 話すと、こういうことを言われるから。まあ元はと言えば、こんな所に未練がましく、自分の創作キャラを描いていた私が悪いのだが。破れた夢を、捨て切れずに──

「……って、事情も知らないくせに何言ってんだよって感じですよね、すみません。本当にすごいなって思って、つい興奮しちゃって。俺、めっちゃ失礼でしたよね」

 そして、そんな賞賛の言葉さえ嬉しく感じてしまう自分の単純さも、愚かだなあと思う。私は平静を装い、「火野さんは、何かお買い物ですか?」と話題を変える。

「ええ、ちょっと電子レン……じゃなくて、細々とした日用品を揃えに。……あの、もしよければ、漫画を描いてた時のお話、聞かせてくれませんか? 俺、結構漫画好きで」

「……別に、構いませんよ。もう思い出話として語れるぐらいには、消化してますから」

 この際だからあの大御所のアシを務めていた話でもしよう。なんて考えていたら、ふと思い出した──貴子先生の仕事場に来ていたあの少年は、今どうしているのだろうか。

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