第81話:君のためなら
車道の左端を駆ける自転車が、歩道を歩く僕たちを追い抜いて行った。僕の左隣を歩く彼女が、感嘆の声をあげた。
「わあ! 今の自転車、すっごく速かったねえ。すっごく細かったねえ」
「あれはロードバイクっていうんだよ。舗装路を早く走ることに特化するために、余計な物を削ぎ落としているんだ。だから細いんだよ」
水川くんはなんでも知ってるねえ、と彼女は柔らかい声で言った。
「私、普通の自転車も乗れないんだよねえ。だからさっきの自転車、私には無理だなあ」
その言葉に僕は安堵してしまう。なぜなら彼女は『やれる!』と思ったことをやってしまう癖があるからだ。しかも厄介なことに、大抵失敗する。電子レンジでさつまいもを加熱しようとした時は焦った。そんな彼女とずっと一緒にいたら、いつしか彼女の身の回りの世話をする使用人みたいな立ち位置になってしまった。本人の可能性を狭めてしまう行為なのだろうが、彼女に危険なリスクを犯してほしくはなかった。それに──
「改めて言うけど、困ったことがあったら何でも僕に言ってくれ。君は僕が守るから」
「えへへ、水川くんは本当に頼りになるねっ!」
僕は彼女を、心から大切に思っている。
彼女の笑顔を守るためなら、僕はなんだって出来るのだ。




