第74話:消しゴムのおまじない
「ねえねえ、青木くん。ちょっと消しゴム貸してよ」
移動教室の準備中、教室に他に人がいなくなったタイミングで、隣席の稲村はそう言った。素直な俺は、素直に消しゴムを貸す。しかし俺は気付くべきだった。彼女はさっきの授業で普通に消しゴムを使っていたことと、彼女の特技が手品であることに。
彼女はポケットから小綺麗なハンカチを取り出し、「消しゴムを使ったおまじない、あるでしょ?」と言った。好きな人の名前を書いて使い切ると恋が実る、というやつか。
「まずはこの消しゴムに、私の名前を書きます。稲村芽依、と。そして昨日ショッピングモールで買った、とっても可愛いハンカチに包みます。さん、にー、いち」
カウントを終えた稲村がハンカチを広げて見せると、俺の消しゴムが姿を消していた。
「私の名前を書いた青木くんの消しゴムを使い切ったので、私の心は青木くんの物です」
「……人の消しゴムを勝手に消すな。そしてそれは、使い切ったことにはならないだろ」
「なるよ。だって手品に『使った』んだもん。それに私、青木くんのこと好きになってるよ。まあ、元から好きだったけど。青木くんさえよければ、これって両想いだよね」
そんな彼女の言葉を無視することで、それを彼女の独り言に変える。用具を持って理科室に向かおうとするが、出入り口までの道中、俺は教室の机にぶつかりまくった。
とりあえず今日の帰りに、消しゴムを買いに文具店に寄らないといけない。




