第7話:センセイ
センセイは私にとって、理想の大人の男だ。明るくて優しくて高身長で、今日も今日とて麗しい。私はいち塾生ながら、センセイの隠れファンだったりする。しかし今日のセンセイは時折、普段しない顔を覗かせる。いつも太陽みたいに輝いているその笑顔に陰りを感じる。私は彼のため息を見逃さない。私は授業終わり、センセイに質問した。
「ほう、さてはセンセイ……。プライベートで、すこぶる嬉しいことがありましたね?」
大人の男は、いち塾生の私なんかには到底想像も出来ないような事情を抱えているに違いない。だからきっと、ため息を吐いている理由は『嫌なことがあったから』ではないのだろう。そう考えるのは早計だ。ここは逆張りで、『良いことがあったからため息を吐いている』という答えに違いない!さすが私!ナイス頭脳!IQ二万!
「あー……。実は、そうなんだ。姉の結婚が決まってね」
正答率の高くない私の頭脳だったが、なんと珍しく、正答を導き出したようだった。うれし。めっちゃうれし。優等生の子が高得点を取った時って、いつもこんな気持ち?
「本当に嬉しいことだったんですね。センセイ、ご結婚おめでとうございます」
「その言い方だと、俺が結婚するみたいだなあ……。まあ、いいけどさ。ありがとな」
そう言ってセンセイは、くしゃっと笑った。普段とギャップのある、可愛い笑顔だ。
大好きなセンセイのそんな顔を見れたとなれば、次の期末は頑張れそうだ。