第66話:フードファイター
「あの……。もしよければ、私が食べましょうか」
身の危険を感じるほどの満腹感と、まだ半分以上残っている大盛りラーメンを前に困り果てていた僕の前に、救世主が現れた。彼女は僕の隣に座り、備え付けの箸置きから割り箸を一膳取った。いただきます、と彼女は呟き、品行方正に、しかしものすごい勢いでラーメンの量を減らしていく。その姿を見ながら、僕はここに来た経緯を整理する。
旅行先で立ち寄ったラーメン屋で、娘のれんげが「大盛りラーメンたべうのー!」と暴れたのが始まりだ。一度言い出すと聞かない彼女に、僕も腹を決めた。れんげをあやす妻にプロポーズした際も、僕は大盛りラーメンを完食したのだ。しかし当時はまだ二十代。今はもう5歳の娘のパパだ。元々少食だったし、三人がかりでも半分しか消費できなかった。そうして残ったラーメンを、救世主が平らげていく。ごちそうさまでした、と言った彼女を、対面に座る妻の志穂さんと娘のれんげは、目を丸くして見ていた。
彼女は「それでは私は、撮影があるので」と立ち上がった。聞くところによると彼女はフードファイターで、これからこの店で大食い対決の動画を撮影するらしかった。
「こちらの不手際で、お仕事に支障を来すことをさせてしまい、大変申し訳ありません」
僕がそう言って深く頭を下げると、彼女は晴れ渡る青空のように明るい声で言った。
「このぐらい全然大丈夫ですよ。気にしないでください。私、食べるの大好きなんで!」




