第62話:仕事終わりに
一通りの仕事を終えた私は、ノートパソコンを閉じた。すっかり冷めてしまったコーヒーの残りを飲み干し、疲れた目を労るために視線を外に向ける。すると、私がこのカフェに入店する前からモニュメント時計の下で立っていた男性が、まだ同じ場所にいることに気付いた。立ち位置から察するに、待ち合わせをしているのだと思う。そしてどうやら、待ちぼうけを喰らっているようだった。もしくは彼がとても生真面目な人間で、待ち合わせの数時間前から自ら望んで待機している、とか。でなければ、あんな仏のような優しい顔をしていられるはずがない。少しの間、仏のような彼をぼーっと眺めていると、店内で歓声が上がった。反射的にそちらを振り向く。見ると、ボブカットがよく似合う端正な顔立ちをした細身の女性が座る席に、特大のパフェがそびえ立っていた。
「それでは大盛りパフェチャレンジ、スタートです」
そう言ってストップウォッチを押す女性店員を確認した彼女は、目の前のパフェをすごい速さで平らげていった。その勢いも凄まじいが、端正な造りの顔に『至福』の文字を浮かべたその表情に、不覚にもどきりとしてしまった。私は平常心を取り戻すため、窓の外を見る。仏のような彼はまだ立っていた。彼の待ち合わせ相手が現れるのが先か、彼女がパフェを完食するのが先か。その白熱したバトルを、私だけが知っている。
仕事が終わって時間に余裕のある私は、高みの見物を決め込むのだった。




