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第55話:ちから貯金

「ニシヅー! 今の電話の相手ってもしかして、カレプロピレン?」

「彼氏でもないですし、熱可塑性樹脂でもないです。有栖川先輩」

 同じ大学に通う有栖川先輩は、勝手知ったる私の部屋にて、床に座る私の膝に頭を乗せながらそう言った。昼夜逆転の夏休みを過ごす彼女の顔は、酒気を帯びていた。

「ええ〜、怪しいな〜? お姉さんに白状しちゃえよ、吐いちゃえよ〜。ニシヅーちゃんよぉ〜。素直にゲロっちゃえば、きっと楽に……、ちょっと待って吐きそ」

「夏休みだからって、こんな昼間からしこたま飲酒するからですよ」

 ここで吐いたら絶交ですよ、と言いつつ、私は二枚重ねにしたビニール袋を手渡す。

「なぁーんて、嘘ぴょん! ニシヅー、私が酒に飲まれるわけがないれしょーぐゎ!」

 そう言うわりに酒に飲まれてそうなテンションだ。私がその勢いに飲まれそうですよ。

「……思ったんですけど有栖川先輩って、私のことずっと『ニシヅー』って呼びますよね。出会った時から。いっつも呼ばれない『カ』の気持ち、考えたことあります?」

「ふふーん、私は貯金しているのだよ。『西塚』って苗字の『カ』をあえて言わないことで、身体の中に『力』を貯めてるのだよ。かをためてちからをたくわえているろらぁ」

 酔っ払いの戯言ですか、と呆れて言うと、先輩は滑舌悪く「ほんとらもーん」と言った。そのまま寝る体勢に突入した先輩を見て、私はエアコンの温度を少し上げた。

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