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第54話:朱に染まる

 電話越しに軽く挨拶を交わしただけで「名取くん。なんか、怒ってる?」と俺の心情を看破したのは、東京の有名な大学に通う、元同級生の友人だった。

「……西塚。お前には隠し事は出来ないな。実はさっき、妹と言い合いになって」

 めっずらしーい、と彼女は驚いた様子で言った。俺はことの顛末を、つらつらと語る。

「──ってな感じで、高校に入ってからは、中学ではつるまなかったような層の連中と遊び始めてな。どうやら良くない影響を受けてるっぽい。要領の良い奴だから、上手くはやれているようだけど。……はーあ。昔は、正義感の強い奴だったんだけどなあ」

「それはきっと彼女なりの、自分の身を守るための手段なんじゃないかな」

 西塚はピンと張ったピアノ線のような声で言った。彼女はどこまでも倫理的な人間だった。そんな彼女がこの声色を使う時、俺は無意識のうちに居住まいを正してしまう。

「自分の正義を貫くのは難しいことだよ。その過程で敵を作るのも、相当なストレスだと思う。だから彼女は自分を守るため、朱に染まった。妹ちゃんの言い方は良くないけれど、自分なりに環境に適応しようとした今の彼女を、どうか悪役にはしないであげて」

 西塚の言葉に「……確かにそうかもな」と返した。出過ぎた真似をしちゃったかな、と申し訳なさそうに言った彼女にフォローを入れる。「妹へのお詫びに、あいつが好きな豆大福でも買ってくるよ」と言うと、西塚は「なんだかんだ、甘々だよね」と笑った。

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