第52話:金橋
私の学校はあまり治安が良くない。そうと知っていたら別の進学先を選んでいたことだろう。ではなぜそうしなかったか。答えは簡単、そうと知っていなかったからだ。ろくに情報収集もせず家の近さだけで高校を選んだ過去の私を、これ以上なく恨んでいる。
まあ治安が良くないといっても別に、今から二世代前の昭和の『ヤンキー』と呼ばれる存在のように、廊下をバイクで爆走したり、釘バットで窓ガラスを割って回るというような暴れ方をしているわけではない。今例に挙げたそれらはテレビで得た知識だが、昔は本当にそんなことが起こっていたのかと、戦々恐々としたものである。
そんな直接的な暴力とは趣こそ違うが、まあ居心地の悪さは似たようなものだろう。カースト上位の生徒が、カースト下位の生徒を雑に扱う。そして、それを良しとする空気が学校中に蔓延している。どちらかと言うまでもなくカースト下位である私の、心の平穏を保つためにオブラートに包んだ言い方をしたが、早い話が弱肉強食ということだ。
その中でも一人、異次元の不良生徒がいた。金橋という女子生徒だ。威圧感のある長身、金髪にピアスという風貌が、いかにもな感じである。悪い噂は絶えない。先程例に挙げた『昭和のヤンキー』がやったような、不良っぽいことはあらかたやり尽くしたと聞いたことがある。今しがたすれ違った金橋さんの背中を横目で窺いつつ、私は早歩きでその場を去った。いつしか息を止めていたことに気付いた私は、大きく息を吐いた。




