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第50話:人間だから

 私は涙していた。何も、特別な出来事に対してではない。

 降り注ぐ日差しに、火照りを冷ます雨に、空の青さに、夕焼けの切なさに、頬を撫でる風に、木々のゆらめきに、花の香りに、土を踏む感触に、道に佇む小石に、寄せては返す波に、波紋が広がる水面に──そんな当たり前のこと全てに、感動していた。

 それらを感じることが出来るのは、私が人間であるからだ。太陽も空も山も海も、私たちに、言語を用いて語りかけてはこない。自然は私たち人間を喜ばせるために有るものではなく、ただ純粋に、そこにいるためだけにそこにいる。そんな当たり前のことですら、ここ数年はすっかり忘れていた。そんなことを考える暇すらなかった。そんなもの、スキルアップや昇進のためには不必要だと、社会から思わされていた。それもまた社会で暮らす人間の"人間らしさ"なのかもしれないが、私はそういうものと、一旦距離を置いた。だからこそ、大自然が私を優しく包んでくれていたことに気付けた。

 そして、人間だからこそ──過去に捨てた夢を、もう一度拾いたくなったのだろう。

 そうして私は、隣町の大型文具店を目指している。車も自転車もないし、公共交通機関を使う選択肢もなかった。今はただ、当たり前にそこにある自然を、五感すべてで享受したい。そのために私は歩く。何時間かかろうと、一向に構わない。全く気にしない。

 今の私には──時間だけは、たくさんあるのだから。

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