第46話:透明な久国
『適当に二人組を作って』という言葉を聞いて何も感じない者と、戦慄する者がいる。俺は前者だ。自分で言うのもなんだが俺は人気者なので、俺とペアを組みたい奴は後を絶たない。ペアを作れず困ったことがないから、後者の気持ちはよく分からなかった。
しかしあいつは『適当な二人組』の相手がいないわりに、その言葉を聞いて戦慄していなかった。あいつはそんな時、決まってこう言うのだ。
「俺は久国と組むので、お気になさらず」
ヒサクニ、という名の生徒は、うちのクラスには存在しなかった。しかしその言葉を聞いた先生は『訳の分からないことを言わずにさっさと二人組を作れ』と怒るでもなく、「ハイハイ、そうなのね」とそれを受け入れる──正確に言うと、匙を投げている。
あいつが透明な生徒『久国』の名前を出し始めた時、学校側はちょっとした騒ぎに陥っていた。電波な発言をする生徒がいる、と。しかしあいつは、少なくとも学校生活においては真面目な生徒だったし、他者に暴力的な危害を加えるわけでもなかったため、好きにさせようと学校側は結論づけたようだった。
今日の体育でも、あいつは他者には見えない『久国』と、真面目に柔軟体操をしている。そしてどこまでも真面目な顔つきで、あいつは独り言を呟いた。
「久国。お前は相変わらず、身体が硬いな」




