第43話:トルコアイスが止まらない
「夏祭りデートなんて羨ましいねえ。うめえトルコアイス作ってやるから食わねえか?」
急にそんな申し出をしてくるような陽気なトルコ人の知り合いなんていたっけか──と思い声がした方を向くと、そこにいたのは日本人だった。もっと言うと、同級生の橋野だった。彼は「食っていけよ」と言い、屋台でトルコアイスを作り始めた。見事な手際だった。夏休み中に連絡がつかないと思っていたが、この練習をしていたのか。
完成したのか、橋野は長い棒の先にトルコアイスをくっ付け、俺に差し出した。手を伸ばすも、しかし空振りする。面喰らったが、そういえばトルコアイスには『渡すと見せかけて渡さない』というパフォーマンスがあるのだった。なるほど、付き合おうじゃないか。その後もそんなやりとりが一分、二分と続く──いや、三分、四分、五分と続いた。さすがに長すぎやしないか。しかし俺の手はまだアイスを取れない。そうしている内に俺は、奴の目の奥にみなぎる憎しみに気付いた。そして、その可能性に思い至る。
「てめえ……。俺に美穂ちゃんを取られたことが、そんなに悔しいのか!」
俺の隣に立つ美穂ちゃんの待ちくたびれた様子を横目で窺いながら、俺はそう言った。
「失恋して、悔しくないわけがないだろ……! 俺はお前に……、絶対にアイスを渡さない……! 欲しければ奪ってみろ――俺から美穂ちゃんを、奪った時のように……!」
奴は不敵に笑み、その後もバトルは続いた。美穂ちゃんは、いつの間にか帰っていた。




