第4話:ポップコーン
胸熱かつ濃密な二時間を終え、館内が明るくなる。それを受けて、他の観客のほとんどが席を立った。彼らは一緒に来たツレと、映画の感想を話し合っていた。しかし俺は、そうはしなかった。なぜなら、お一人様だから。意見交換をしたいもどかしさを抱えながらも、俺は食べかけのポップコーンの容器を持って席を立ち、出口へ向かう。上映後にいつまでも館内に居座るわけにもいかない。出口までの動線に一組の男女がいて、それを煩わしく思いつつ「すいません」と前を通った。早く帰れよ、このリア充共が。
「……あ。もう出ないとっすね。いやー、放心しちゃってました……良すぎて……」
俺の後ろでカップルの女の方が、そうこぼした。ツレの男もそれに同調する。カップルで映画なんて妬ましい限りだが、その気持ちに限っては同意だ。廊下に出て、スマホの電源を入れる。SNS上に短く『尊かった……』とだけ書いた。直接感想を語り合う相手はいなくとも、俺のSNS上にはたくさんのフォロワーがいる。続々とリプライが飛んでくるだろう。スマホを持つのと反対の手には、少し余ったポップコーンの容器。俺はそれを、じっと見つめた──このまま捨てるつもりだったが、そうはしなかった。
「お前を、ひとりぼっちにさせるかよ」
映画に登場した台詞をマネしてから、俺は容器の中身を全て口に流し入れた。そしてゆっくり咀嚼を試みる。余ったポップコーンが独り者の俺と重なって見えたのは内緒だ。