第37話:酷い女
「ねえ!澤谷くんの出番、まだかなあ?」
正面ステージのみがスポットライトで照らされた体育館内が、観客の拍手に包まれる。次の有志者がステージに立つまでの準備時間中、隣の席に座る彼女は私にそう言った。
「まだステージは始まったばっかだよ。澤谷は、最後の方」
そっかー、と彼女は両足をばたばたと前後させた。彼女は、私がこの中学校で知り合った親友。そして澤谷というのは、私が小学生の時から片想いしていた男子だ。
「まだかなあ……。待ちきれないよ〜」
私は、酷い女だ。この子が引っ越しに伴う転校を断固拒否したという話を聞いた時、正直なところ、私は『転校しちゃえばいいのに』と思ってしまった。理由は一つ、澤谷と彼女をくっ付けさせたくなかったから。私のそんな醜い思いを知る由もない彼女は、意中の相手である澤谷への執念によって一年以上、片道一時間以上かかるバス通学を続けた。そしてその大胆な性格で、ほどなくして澤谷に告白。そして了承。カップル成立。
そんな彼女の軽く倍以上の時間、澤谷に想いを募らせていた私の存在価値とは──
……というのは、私の嫉妬だよな。単に私の行動が、遅かっただけ。
「本当にアンタ、せっかちだよね」
澤谷の登壇を心待ちにする彼女を素直に可愛いと思えない私が、酷い女であるだけだ。




