第35話:後輩の後輩
『東条先輩。俺、ぜってー先輩に追いつきますから』
先輩相手にそんな風に息巻いたあの日から、もう一年半以上も経っている事実にびっくりする。そう思えるぐらい濃密な時間を、俺はこのサッカー部で過ごしてきた。
「今日も自主練っすか、先輩? 受験勉強は大丈夫なのかなァ」
「うるせーな。後輩のお前に心配される必要はないよ」
「でも先輩、こないだ部室で愚痴ってたじゃないすかァ。母親に成績のこと口出しされてムカつく、って。早めに始めておいた方がいいと思うけどなァ」
「ああ、もう。お前には関係ねーだろって。本当に、お喋りな野郎だな」
「お喋りが好きなのは生まれ付きっすよォ」
黙って練習に付き合え、と言うと、後輩は「へーへー」とへらへら笑った。そんなこいつを呆れて見ていると、後輩は急に目を細めて、俺の背後をじっと睨み始めた。振り返ると、少し離れたフェンスの向こう側、学校の敷地外に、無精髭の男が立っていた。
「生徒の親、って歳でもないっすよね。不審者? 文化祭も近いってのに、物騒だなァ」
俺たちの視線に気付いたのか、その男は踵を返し、力のない歩き方で去って行った。
「先輩もちゃんと勉強しないと、あんな風に怪しい大人になっちゃいますよォ」
「……お前はまず、口の聞き方を勉強しような」




