第34話:越えたい背中
『東条先輩。俺、ぜってー先輩に追いつきますから』
まだ一年も経っていない中学校の卒業式が、ずいぶん昔のことのように思える。あの日俺にそんな生意気なことを言ってきたアイツは、今日も練習に励んでいるだろうか。
「一年生レギュラーって、東条くんだけなんでしょ? すごいなあ。私も頑張らなきゃ」
部室から徒歩五分程度の学生寮に帰宅する道すがら、隣を歩く彼女の沙耶が言った。
「うちのサッカー部にスカウトされるってだけで、相当だよね。私でも分かるもん。中学も全国レベルだったんでしょ?」
「全国大会に出たのは、俺より少し上の世代だよ。当時の勢いは凄まじかったらしい。俺は、あの場所には行けなかった。俺がここに来れたのは、運に恵まれていたからだよ」
「でも結果的に、うちみたいな強豪校でレギュラーになった。それは東条くんの力だよ」
やや卑屈気味に謙遜をした俺を、沙耶はなおも立てた。どんな時も俺を持ち上げてくれるその姿勢は素直に嬉しく思うし、期待に応えなければ、というモチベも湧いてくる。
もう一つ、俺の気持ちを高めてくれる存在がいる。俺の出身中学から、俺以外に唯一、うちの高校にスカウトされたOBの先輩。面識はなかったが、黄金世代のキャプテンを務めた人だ。そんな人が今もどこかでサッカーをやっていると思うと、胸が熱くなる。
越えたい背中を思い浮かべ、俺は一人、秋季大会での活躍を誓うのだった。




