第25話:あなた
思い出すのは、あなたの意外そうな顔。
「『なにするつもりなの?』って、これから食べる晩飯を作るつもりだけど……。もしかして、他人に厨房を任せるのは嫌だったか?人が作った物は食えない、とか」
あれは初めておうちデートをした日の夜。当然のようにそう言った彼を見て、私は動揺してしまった。私は「そ、そんなことないよ」と伝え、キッチンに向かう彼を見送る。
他人が発する『お腹空いた』の一言は、『だからお前が作れよ』という意味だと思っていた。女だからという理由で全ての家事を私に押し付けていた元彼は、平日も土日も関係なくソファーに寝転がって、スマホを見ていた。元彼が珍しく出かける時は、決まって私に「財布どこ?」と尋ねた。元彼は私が差し出した財布を、無言で持っていく。その財布には私が仕事で稼いだお金が入っていた。私が仕事で遅く帰った日、元彼がくれたのは「メシ、早くしろよ」という言葉だけだった。機嫌の良い時でも「メシ、早くしてね」だったな。そんな過去を思って涙しなくなったのは、あなたと出会ってからだ。
月日が流れても、あなたは変わらなかった。今日もあなたは当然のように、キッチンへと向かっていく。その背中がたまらなく愛おしい。あなたは出会った時から自分のことを「真面目なだけの、つまらない人間だよ」と言うけれど──私は、そんなあなたが。
そんな神田くんが、大好きなのだ。




