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第24話:神田

 あと一歩、足を前に踏み出せば──全てを終わらせることが出来る。

 二十三時過ぎの駅のホームで、俺はそんな物騒なことを考えていた。しかし、実行はしない。絶対に。なぜなら、人様に迷惑が掛かるからだ。『人に迷惑を掛けず、真面目に生きよう』が神田家の家訓だ。そんなものを、俺はいつまでも真面目に守っていた。

 先輩のいつもと違う顔が見たい、という昼間のやりとりを思い出す。プランを練るあいつの楽しそうな顔。出来ることなら俺も、あいつのようにひょうきんに生きたかった。仕事は俺よりも出来ない奴だが、良い意味で隙があって、周囲から愛されている。

 対して俺は、真面目なだけ。真面目。それは純粋な褒め言葉ではない。俺は言われたことを、言われた通りにこなすことしか出来ない。それに俺は真面目ではあるが、決して優秀な会社員ではなかった。理解力の低さゆえに、人一倍努力するしかないだけだ。必死に考えて、工夫して、息も絶え絶えになりながら及第点を目指す。そして『自分は劣等生ではないのだ』と思いたいだけだ。ゆとりも余裕も遊びもない人間。そんな俺が生きる意味など、果たしてあるのだろうか。俺なんかいなくても、問題なく世界は回る。

 ともかく今の俺がすべき行動は、到着した電車に乗り込むことだけ。家に帰ったら明日の支度を整えて、すぐに就寝するだけ。そして朝になれば、決まった時間に家を出る。

 だって俺は、真面目ぐらいしか取り柄のない人間なのだから。

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