表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/105

第21話:牛丼

 嫌なことばかりの世の中だと、今までは本気で思っていた。そしてこれからもきっと、そう思う出来事は俺のもとにたくさんやってくるだろう。嫌なことばかりが、嫌になるほど。でも、今日は──今日ばかりは。そんな気持ちを、忘れてもいいと思うんだ。

 卓上に常備された箸を一膳手に取り、手を合わせてから「いただきます」と呟く。目の前に置かれた牛丼のサイズは並盛り。箸入れの隣に設置されたケースから、少量の紅生姜を器によそう。牛肉、米、紅生姜をほどよい分量で乗せた箸を、口の中に運んだ。咀嚼と同時に、俺はどうしても、考えてしまう。普段なら朝礼が終わった時間だな、とか。普段なら今から最低十二時間は拘束されるな、とか。それも、昨日までの話だ。後のことを何も決めずに退職してしまったことに、後悔が無いとは言えない。だけど今は、ゆっくりと朝ごはんが食べられることが嬉しかった。涙が出そうになるほど。

 涙が出そうになるどころか、食べ進める内に、いつしか本当に涙が出てしまっていた。朝の牛丼チェーン店で。他の客もそれなりにいるのに。俺が牛丼を前に一人で涙していると、隣席に座る若い男女のうちの男性の方が、大丈夫ですか、と声を掛けてきた。

「大丈夫です……、すみません……、すみません……」

 恥ずかしさと解放感で、頭の中がぐちゃぐちゃだった。俺は構わず、牛丼をかき込む。

 一杯三百五十円の牛丼の味だけが、俺の舌に、確かに染み込んでゆく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ