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第20話:ふにゃっと、もにゃっと

「せんぱーい。今から朝ごはん食べに行きましょーよ」

 あたしの誘いに、先輩は間髪入れず「おっけー」と返事をした。ふわりと舞う羽根のような軽々しさだ。バイト終わりの先輩はいつも、何というか抜けている。力というか、精根というか。擬音で例えるなら『ふにゃっ』とか『もにゃっ』みたいな感じだ。

「やったー。奢りっスよ。あたしはあたしに奢るんで、先輩は先輩に奢って下さーい」

「奢りかーいと思わせといて、自分の食べた分を自分で支払ってるだけじゃねーかー」

「あっちゃー、バレたかー。さすが先輩、IQ五万ー」

「そんなにIQがあったらバイトなんてせずに、クイズ大会で大儲けやろがーい」

 言えてるー、と軽薄なノリで返答しつつ、先輩は男子更衣室に、あたしは女子更衣室に向かった。お互い深夜帯のシフトに変わったばかりだから、きっとまだ体が慣れていないのだろう。だからこんな、朝なのに深夜テンションみたいな感じになっているのだ。着替えを済ませて更衣室から出ると、先輩がすでに待っていた。シワのあるシャツに、ナチュラルに破れたジーンズ姿。ふにゃもにゃしたその感じが、あたしは好きだった。

 牛丼でいいかな、と言った先輩に「先輩と一緒ならどこでもー」と返す。そしてあたしたちは、バイト先のレンタルビデオ店から退勤する。

 嫌なことばかりの世の中だけど、今この瞬間は、私にとっては幸せだ。

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