第13話:激流
「人生、色々ありますよね。色んなことが色とりどり。もう、参っちゃいますよね」
突如現れた、俺の半分ぐらいしか生きていない年齢であろう女子高生の、『人生』の本当の意味すら分かってなさそうな適当なその言葉は、不覚にも心に刺さってしまった。
「人生は激流ですから。どこに行くのか、何が起こるか全く分からない。大変ですよね」
何の具体性もない言葉を発しながら、彼女は俺の隣に座った。彼女からは、平日の朝から公園のベンチで落ち込んでいるスーツ男を訝しむ様子は感じられなかった。
俺はアドバイスが欲しいわけでも、激励がされたいわけでもない。ただただ、受容されたかったのだ。それから彼女は、堰を切ったように口から溢れ出していた俺のくだらない身の上話を、ほどよい相槌を交えながら聞いてくれた。そして情けなくも俺の口から発せられた「会社の前まで着いてきてほしい」という願いまで叶えてくれた。
「人生は激流ですから。行ってらっしゃい」
そう言って俺に手を振る彼女は、最後の最後まで何の具体性も示さなかった。しかし、俺の腹はすでに決まっていた。鞄に忍ばせた退職届のことを思い出す。
人生は激流──ならばいっそ、身を任せてしまおう。
「ありがとう。行ってきます」
社会人として、まずは遅刻したことを謝ろう。本題はそれからだ。




