第100話:佐野氏と
焼肉屋の個室で十数年ぶりに再会した堀口は、印象が変わっていた。昔は丸々としていたが、今はシャープな体型だ。銀縁のスクエア型メガネが、知性を滲ませている。
「久しぶりでござる、佐野氏。佐野氏は変わらないでござるなあ。変わらず、いい男だ」
見た目は変わったが、その口調は変わらなかった。昔からござる口調を好んでいたわりに一番ハマっていたのがガンマンの漫画だというのだから、傑作だ。そんなことを思い出していると、彼は「この口調を用いるのは、親友である佐野氏の前だけでござるよ。さすがに普段使いをしていては『ござる課長』と陰口を叩かれますからな」とおどけた。
「……俺は、変われなかったよ」
焼肉をつつきながら、俺はこれまでのことを語った。初恋を未だに引きずっていること。慕ってくれた女の子に八つ当たりをしてしまったこと。それをとても悔いていること。疎遠になった友人に会えて気が緩んだのもあるだろう、つい、口から想いが零れた。
「なあ、堀口。俺は──俺は、幸せになっても、いいのかなあ」
「……佐野氏の幸や不幸を、拙者は決められないでござる。そんな権利も、そんな力もない。でも、佐野氏が幸せを望むのであれば、拙者は迷いなく背中を押すでござるよ」
あまり焦がし過ぎるのもよくないですぞ、と堀口は俺の皿に肉を置いた。その厚意を無下にするようで大変申し訳ないのだが、多分その肉、しばらくは口にできそうにない。




