第1話:歳の差
私は幼い頃から、九一郎にーちゃんのことが好きだった。
年中行事で年に数回顔を合わせる、遠い親戚の、十四歳年上の九一郎にーちゃん。
「私、九一郎にーちゃんと結婚する! 今する! 今すぐ! 今するぐ!」
「年長さんのりーちゃんじゃ、まだ結婚は出来ないんだ。僕の歳ぐらいにならないとね」
「わかった、にーちゃんと同い年になる! だからにーちゃんは『はたち』のままね!」
思えばこの時、にーちゃんは私に気を遣ってくれたのだろう。夢見がちなお子様であるところの私を、優しくフってくれたのだ。しかし幼い私はそんなことを知る由もなく、あまつさえ『歳を取るな』と命じていた。今思えば恥ずかしいことを口走ったものだ。
その後もにーちゃんへの想いに一直線だった私を、周りの人は『単なる年上への憧れに過ぎない』とたしなめた。そんな言葉を信じそうになったこともあった。だけど。
「そんなことお構いなしとばかりに、私は今も、九一郎にーちゃんのことが好きだよ。これも私が、人間だから?」
大人になった私は、九一郎にーちゃんの口癖を借りてそう言った──人間だから。
「……そうだね。僕が『はたち』のままでいられないのも、君が僕のことを変わらず好きでいてくれる気持ちも、人間だからだよ」
そう言って、九一郎にーちゃんは笑った。