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IF後日談 Side:ロベルト

本編エピローグ終了後の後日談です。本編の後ろにおまけとして載せていたIF後日談と同じものです。


X年後に告白をする攻略対象たち、というテーマのお話ですので、恋愛要素強めです。


マルチエンディング的な、IF世界線のお話なので、もし○○が告白するとしたら……ということで、それぞれ世界線も時期も(本編終了後どのくらい後なのかも)バラバラです。その点お含みおきください。


こちらはロベルトの後日談です。


 その日は、特に変わったところのない、いつも通りの1日だった。

 訓練場で候補生たちを送り出した後、ロベルトに請われて手合わせをする。


 もう学園を卒業して何年も経った。

 私はともかく、こいつはいつまで訓練場で教官の真似事をしているつもりだろうか。


 ふと思ったものの特段聞くほどでもないかと思い直して、立ち合いを開始した。

 下手に聞くと自分にブーメランのように返ってくる気がする。


 剣を交わす。相変わらず重い剣だ。だが、捌き切れないほどではない。

 激しい金属音を響かせながら、剣戟を繰り広げ……そろそろ私も攻勢に出ようかと思った、その瞬間。


「!」


 私の剣が折れた。


 身を躱そうとしたが、ロベルトの踏み込みが深い。

 私が次の行動を取るより早く、ロベルトの剣の切っ先が私の喉元に突きつけられる。

 彼の若草色の瞳は鋭い光を宿して、私を貫いていた。


 ふっと息を吐き、両手を上げて降参のポーズを取る。

 やれやれ。こんな日はずっと先になると思っていたのだが……私もまだまだということだろう。


「私の負けだ、ロベルト」

「え?」

「強くなったな、本当に」


 握手をしようと手を差し出した。

 鋭かった眼光がすっと消え失せ、彼がきょとんとした顔で私と私の差し出した手を交互に見る。


「あれ? ……俺……勝ったんですか?」

「……そうだよ」


 呆然としている様子のロベルトに、私は苦笑いで言う。


「君の勝ちだ」

「隊長……!」


 差し出した手を、両手でぎゅっと握られる。彼が一歩距離を詰めてきた。

 彼の方が背が高いので、見上げる格好になる。


 彼はいつものキラキラが飛んできそうな目をして、真剣な顔で私を見つめ、言った。


「俺と結婚してください」

「は?」


 咄嗟に聞き返した。

 何て?


「貴女に勝ったら言おうと決めていたんです。願い事、聞いてくれるって約束でしたよね!」


 嬉しそうに笑うロベルト。


 いや、そんな約束覚えがない。

 よしんばしたとして、きっと私は「聞く」と言っただけで「叶える」気はなかったはずだ。


 ロベルトの顔に邪気はなく……どこか晴々としたような、輝かんばかりの笑顔だ。

 そして彼が冗談を言えるほど器用な人間ではないことは、私もよく知っている。


 いや、だとしても。

 何故急に、結婚などという話になるのか。


 眩しさに目を焼かれかけながら、彼に問いかける。


「どうした、ロベルト。頭でも打ったのか?」

「ずっと、好きだったんです。貴女のこと。ずっと、ずっと……貴女だけを見ていた」


 ぎゅっと抱き締められた。

 動きに隙がなく、防げなかった。なんだ、こいつ。

 さっきまでより格段に動きが良くなっている気がする。


「やっと、貴女に触れられる」


 私を抱き締めながら、片手でそっと私の頬を包み込む。大きく硬く、ごつごつとした、騎士の手だ。

 男の手だ。


 若草色の瞳から、いつもの……いや、いつもの3割マシくらいのキラキラが私に飛んでくる。

 回された腕の力が強い。ちょっとやそっとでは、抜け出せそうにない。

 逃げるなら全力で逃げなくては。殺るか殺られるか、だ。


 とりあえず、言語での説得を試みる。


「えーと。ロベルト? それは、敬愛というやつじゃないか? ほら、いつも私のこと、尊敬してますって顔で見ていただろう?」

「もちろん、尊敬しています」

「その感情と、結婚の時に誓う愛は違うものだ。お前はそれを勘違いしていないか?」

「いつも尊敬していましたし、いつも貴女に、焦がれていました」


 曇りのない目で言うロベルト。

 確かに見られたところがじりじり焼け付きそうな眼差しをしている。たぶんそういうことじゃないだろうが。


「結婚しなくったって、私はお前とは師弟のようなものだと思っているし……今後、仲間として背中を預け合うことも、隣に立つこともあるかもしれない。お前の求めているのはそういうやつじゃないか? それなら私も断固拒否するものではない」

「それじゃ、だめなんです」


 ロベルトが首を振った。

 一瞬視線が逸れたことで内心ほっと息をつく。あんな目で見つめられていては、窒息する。

 ……彼の言葉の内容は、まったく私の意に染まないものだったが。


 キラキラのせいか、内臓が圧迫されているせいか、頭痛がしてきた。


「俺だけが貴女の隣に立ちたいし、貴女の危機に駆けつけるのは、俺でありたい。俺が貴女だけを見つめるように、貴女にも俺だけを見つめてほしいんです」


 照れた様子もなく、真剣に……だがどこか嬉しそうな表情で言うロベルト。

 よくもまぁそんな台詞を言えたものだ。羞恥心という概念をどこに忘れてきたのだろうか。

 見ていられなくなって目を逸らす。


 ゲームの中の彼を思い出した。

 俺様系ツンデレだった彼は、恋愛ルートではそりゃあ甘い台詞も口に上していたが……ここまでではなかったはずだ。


「俺を貴女の特別にしてください」


 ロベルトが、そっと私の髪にキスを落とした。


「っ!?」


 咄嗟に逃げようと上体を反らすが、彼は腕の力を緩めなかった。折れる。


「お、お前、そんなことするタイプじゃないだろう!?」

「他の人にはしません。隊長だけです」

「違う、そうじゃない」


 聞いてくれ。そうじゃない。

 さっきから一向に言葉が通じている気がしない。いつの間にバベルの塔が崩壊してしまったのだろうか。


「とりあえず、離せ」

「隊長、こうして抱き締めるとやっぱり俺より細いし、小さいですね」

「お前がデカいだけだろ!」


 ダメだこいつ、聞いていない。


「隊長」


 頬に添えられていた手に力が入る。無理矢理彼の方を向かされた。

 彼の瞳が私を捉える。

 捕食者の目だった。


「キスしていいですか?」

「殴られたいのか?」

「殴られてもいいから、したいです」

「調子に乗るな!」


 腕に力を入れて空間を作り、しゃがみ込んで拘束から逃れる。

 素早く後ろに飛んで7mほど距離を確保した。


「話を聞け! いいか、お前がもし、万が一、仮に、本気だとして」

「俺は本気です!」

「黙って聞け」


 ロベルトが一歩、こちらに歩み寄る。

 私は一歩、後退した。


「私の方にはその気がない、お前のことをそういう目で見たことがないし、」

「じゃあ今から見てください!」

「黙って聞けって」


 また彼が近づいてくる。私は距離を確保するため、後退する。


「お前はおそらく視野が狭くなっているだけだ。子どもの頃の憧れを引きずっているだけだ。それか、婚約破棄の負い目か何かだろう。世の中に女は星の数ほどいる。一旦冷静になって周りを見てみろ、私に拘らなくてもお前ならどうとでもなる」

「俺は冷静です」

「寝言は寝て言え」


 お前が私より冷静だったのをついぞ見たことがない。

 どんどん近づいて来ようとする彼から離れるため、私は駆け出した。


「たくさん考えました。それでも、……俺は、貴女がいいんです。貴女が好きなんです」


 私を追って走り出したロベルトが、追いすがるように言葉を重ねる。

 私は振り向くことなく、前を見て走り続ける。


「好きです。貴女とじゃなければ、俺は結婚したくない」

「あーもう、それは分かったから、何回も言わなくていい!」

「いえ、分かってません」

「は?」


 ロベルトが、私の言葉を否定した。

 お前、私が黒と言ったら白熊でも黒だと言いそうなくせに、こういうときばかり。


「俺は、隊長の立ち姿が好きです。凛としていて美しくて、いつも背筋がまっすぐ伸びていて。その背中を見ているだけで心強く感じます」


 土を蹴る脚に力を込める。スピードを上げた。


「隊長の太刀筋が好きです。速さも重さも技巧もすべてが完璧で、迷いのない太刀筋に、俺はいつも惚れ惚れします」


 走って走って、訓練場を飛び出した。グリード教官が何事かという顔でこちらを見ているのが視界の隅にちらりと過ぎった。


「隊長の瞳が好きです。俺たちのことをしっかり見てくれて、戦いの時には何手も先を見通して。未来を見据えているその瞳が好きです」


 相当スピードを上げて走っているつもりなのに、ロベルトの声は一定の距離を保って私を追いかけてくる。


 しまった、と思った。

 王城の方に逃げればよかった。遮蔽物のあるところの方が私に利があったかもしれない。


「隊長の言葉が好きです。厳しくありながら、俺たちに真摯に向き合い、俺たちを想う気持ちに溢れる言葉をくれる。一歩訓練を離れれば、気さくな言葉を掛けてくれるところも好きです」


 少しずつ、脚が動かなくなる。

 彼の言葉が私の背中にどんどんとのしかかっているような心地がした。


「隊長の身体が好きです。鍛え抜かれていて、引き締まっていて、美しい。それでいてしなやかで俊敏で、抱きしめると俺の腕に収まってくれる」


 私は、立ち止まる。

 ああ、もう。何なんだ、こいつは。本当に、頭が痛い。


「隊長の考え方が好きです。自分にも他人にも厳しく、ストイックでありながら、困っている誰かに手を差し伸べることが出来る、強く気高く、美しい心を持った貴女が好きです」

「もう勘弁してくれ……」


 顔を覆って呻く。

 何だ、この、恥ずかしいやつは。


 振り向いて、彼の顔を睨む。

 真面目な顔をしていた。やはり、冗談を言っているとは思えない。

 若草色の瞳が、私をまっすぐ貫いた。

 冗談でもなければ、恥ずかしげもない。かえってたちが悪かった。


「少しは伝わりましたか? 俺の気持ち」


 ロベルトが、私に問いかける。


「考えてくださいましたか? 俺のこと、そういう目で見てくださいましたか?」

「……保留で」


 私は歯の隙間から絞り出すように、苦々しく告げた。


「はい?」

「保留で」


 首を傾げるロベルトに、同じ言葉を繰り返す。


「急に言われても、無理だ。とりあえず、保留で」

「分かりました」


 粘られるのを覚悟していたが、彼はあっさりと頷いた。


「待ってます」


 彼は、ぱっと光が散るような、花が綻ぶような。

 そんな顔で、とても嬉しそうに……笑った。


 時間が経つうちに忘れてくれるのを祈りつつ、有耶無耶に出来るのではないかと考えていたのだが……あまりに邪気のない笑顔に、その気が失せていく。


 御し易いくせに時々、予想の斜め上の行動を取ってくる。

 その度振り回されている気がするのは、私だけだろうか。


 やれやれだ。



 ◇ ◇ ◇



 翌朝。


「おはようございます、隊長!」

「……朝から、何の用だ」


 日課のランニングに出ようとしたところ、門の前で待っていたロベルトに捕まった。


 何故アポなしで、しかも我が家の門の外で、待っているのか。

 彼は例のキラキラを瞳から飛ばしながら、私をじっと見つめている。


「保留の結果、どうなりましたか?」

「翌朝に来るやつがあるか!」


 結局、毎朝のように聞きにくるロベルトと一緒にランニングをするのが日課になってしまった。

 どうしてこうなった。

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