縦横無尽
モンスター軍団の城への襲撃。
慌てて突破された正門に駆けつけた俺が目の当たりにしたのはゴブリンに囲まれて早速くっころしてるイーリヤの姿だった。
『言っておきますけど私は何もしてませんからね』
黙ってろベアリス、言われんでも分かってる。こいつは元々こういう奴なんだって。
「ファイアウォール!!」
ぶっつけ本番で広範囲に攻撃魔法を放ち周囲にいたゴブリンを焼き払う。まだ周囲にはゴブリンはいるものの一番近くにいた奴らはとりあえず倒すことができた。
「勇者様! 危ないところをありがとうございます。二度ならず三度までも……」
「下がってろ!!」
正直今はイーリヤに構ってる暇はない。ゴブリンはまだ少し残ってるし、騒ぎに気付いて周辺のモンスター達も集まってくる。
「イヤーッ!!」
「グワーッ!!」
俺は手当たり次第にファイアボールを放ってモンスター共を焼き払う。くそっ、本当に戦場じゃねーかこんなの。
「イーリヤ、大丈夫か!?」
周囲の敵をあらかた焼き払って振り返ると、イーリヤは既にその場にはいなかった。どゆこと?
「近衛騎士長なら向こうのオークに苦戦している集団に加勢に向かいました!!」
『私は何もしてませんからね』
分かってるわボケ! 完全にわざととしか思えん。俺は即座に全速力で駆けつけて、すでにオークとの戦いに敗れてボロボロになって「くっこ」まで言いかけてる彼女とオークの間に割って入った。俺がゴブリンを焼いてる間にここまで事態が進展してるとかどんな早業だよ。
「勇者様! 三度ならず四度までも……」
「イヤーッ!!」
「グワーッ!!」
正直今クッコロさんと会話をしてる暇はない。とはいえまたその辺をうろちょろされても困るのでクッコロさんの鎧の奥襟を掴んだまま片手でオーク共を焼き払う。
こうやってしっかりつかんでればさすがにくっころできまい。俺は周囲のモンスター達を攻撃し続ける。あらかた敵を倒したところで俺は振り返って彼女に声をかける。
「イーリヤ、一旦体勢を立てなおし……っていない!!」
しっかり鎧を掴んでたのに!! 気付けばイーリヤは上半身の鎧だけを残して姿を消していた。ニンジャかこの女!!
「近衛騎士長なら宝物庫に聖剣を取りに……」
兵士の言葉に視線を移してみるとクッコロさんは鎧下だけの姿になって巨乳を揺らしながら走っていた。あの女の機動力いったいどうなってんだ!! 女神にチート能力でも貰ってんのか!?
『私は何もしてません』
うるせー!!
とにかくクッコロさんを追わないと。
城内ならここよりは危険は少ないかもしれないけど、昨日みたいなことにならないとも限らない。あの女の事だからその辺の衛兵相手にくっころかますかもしれないし、バナナの皮で滑って転んだ拍子にくっころするかもしれない。
俺はすぐに彼女に追いついて抱き着くように彼女を止めた。
「え!? 勇者様!! いけません、こんなところで」
「ハァ……ちょっ待っ……ハァ、ハァ……」
何が「いけません」だこのボケ。
とりあえず俺は息を整える。さすがにスタミナ切れだ。モンスター共をぶっ殺しながら合間合間であっちこっち走り回りながら縦横無尽にくっころするイーリヤを助けて回ってるんだから当たり前だ。
「もう……ホント……勘弁してくれ」
彼女を捕まえてホッとしたのか、俺はその場に膝をついて涙を流してしまった。
「え? 勇者様? いったいどうしたんですか」
どうしたんですかじゃねえよボケ。
「勇者殿、これは一体どうしたことか」
これは、国王陛下の声か。陛下もここにいたのか。戦場だっていうのに。
まあ確かに二人からすれば訳が分からないかもしれない。いきなり勇者が泣き出して。俺も確かにはっきり口で言ってなかったからな。やっぱりちゃんと言わなきゃいけなかったんだ。
俺は立ち上がってイーリヤの顔を見る。
よし。今度こそちゃんといるな。
これでいつの間にか別人にすり替わっててイーリヤは別の場所に、とかなってたらさすがに心が折れてたわ。
「あのね……? イーリヤがそこらを走り回って敵に捕まるたびにね? 俺が追いかけて助けて回ってるわけよ。わかる?」
「まあ」
まあ、じゃねえよこのクソボケが。気づいてたのかよ。いかんいかん、落ち着け俺。
「姫はこの国で大切な人なわけじゃないですか……もちろん俺にとっても大事な人なんですよ。ですからね? 決して一人で敵に突っ込んだりして迷惑を……じゃなかった、危険な目にあってほしくないんです」
「すいません。そうとは気づかずに、足を引っ張ってしまって……」
「ふふ、イーリヤはこれほど勇者様に思っていただいて幸せ者だな。この国の将来も安泰だ。魔王討伐の暁には、ぜひイーリヤと、婚礼の儀を……」
国王がどうでもいい話をし始めたので俺はその隙にちらりと正門の方に振り返って戦況を確認する。
よし、さっきよりは人間側が盛り返してきている。俺が大分焼き払ってモンスターの数を減らしたし、城の兵士達だけで何とか対処できてる。これならそう時間もかからずに城壁の外に押し返せるだろう。
「勇者様……勇者様?」
「ふぁっ!? ハイ!!」
気付いたらイーリヤが俺の事を呼んでいた。その手にはなんか、片手剣? あれ? なんか見覚えがある様な……思い出した、ベインドットが持ってた聖剣だ。燃えてなかったのか。
「先ほど私は勇者様に渡すために宝物庫に聖剣を取りに行こうと思っていたんですが、同じく勇者様に聖剣を渡そうとする陛下と鉢合わせしまして……」
ああ、それで陛下がここにいたのね。よし、じゃあ早速それを俺に渡してもらって、モンスター共を薙ぎ払って……
「まずはこの剣の力を知ってもらうため、私が露払いしてきます! いざ!!」
イーリヤは剣を鞘から抜いて敵軍の方に駆けだそうとする。
「ちょい待てやああぁぁぁぁぁッ!!」
俺はクッコロさんの奥襟を掴んでその場に引きずり倒す。このクソアマが! 全然分かってねえじゃねえか!!
「イーリヤ! 今の勇者殿の話を聞いていなかったのか、一人で突っ込むな!!」
さすが陛下、分かってらっしゃる! それに引き換えこの女は。
「す、すいません、いつものクセで。すぐには無理ですけど、少しずつ変えていきますので!」
すぐに変えろやボケ。人間一度死んだらお終いやぞ。
イーリヤはようやく理解してくれたようで、立ち上がって俺の方に聖剣の柄を差し出した。
「勇者様、あなたのち〇こです」
なんだと?