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四天王カルナ=カルア

 クッコロさんは相手の力が分からないような人じゃない。


 そうだ。クッコロさんにはきっと勝算があるんだ。


 そんな風に考えていた時期が俺にもありました。


 衛兵に案内してもらって正門にたどり着いてみたらそりゃ酷い有様だった。そこは魔族の四天王にやられたのか、いたるところの城壁は崩れ、小さなクレーターがあき、身動きの取れなくなった兵士がそこかしこに倒れていた。


「フン、近衛騎士でもこの程度の力か。これならば魔王様のお力など必要とせんな。とりあえず今日のところはこの女を戦利品として持ち帰るとするか。

 ヒヒ、なかなかそそる体してやがる」


 こいつが例の魔族の四天王だろうか。浅黒い肌で、頭部に見事な一対の角の生えたチャラ男が、ボロボロになったクッコロさんの両腕を片手で拘束してぶら下げるように持っている。


「くっ、殺せ……敵の慰み者になどならぬ!」


 早速くっころしとるやんけ、予想通り過ぎて笑いも出んわ。


「くくく、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺様は魔王軍四天王筆頭、一撃絶命鉄宝流空手最高指導者、黒鉄のカル……」

「ファイアボール!!」

「グワーッ!!」


 自己紹介を言い終える前に俺のファイアボールが黒鉄のカルを襲った。残像を残して赤い炎が突き進むさまは「ボール」というよりは「レーザー」みたいだ。名乗りは俺にではなくクッコロさんに向かってしていたので完全に不意打ちである。


「あつ……あっつぅ!! なんなん!? まだ名乗りの途中やったやんねえ!!」


 お? あれ喰らって平気なのか?ベインドットは一撃で倒れたのにカルはピンピンしてるみたいだ。尻餅ついて動けないみたいではあるけど。


 ……早めに始末しとこう。俺は再び右手に魔力を込める。


「ちょちょちょっ、ストップストップストップ!! タンマタンマ!! まだ名乗りの途中だろうが!!」


 んだよ、テンポわりぃなあ。ちゃちゃっと殺っときたいんだけど?


「…………」


「…………」


 しばし正門の前に沈黙の時が流れる。後から遅れてやってきた国王陛下たちも固唾をのんで見守っている。


「……いいな?」


 何がだ。


「俺の名は、四天王の一人、カルナ=カル……」

「イヤーッ!!」

「グワーッ!!」


 とうとう俺は無詠唱どころか「ファイアボール」って言わなくてもファイアボールを出せるようになった。四天王カルナカルは再度吹っ飛ぶ。


「おま……ホンッッットさあ!! どこの子なん!? どういう育てられ方したん!?」


 おお、ぶちぎれてるけどまだ生きてる。なんて頑丈な奴だ。


「なんなん? 普通……おかしいやん? まだ名乗りが終わってないやろ? なに? 最近の子はみんなこうなん?」


 舌打ちをしながらカルナ=カルが立ち上がる。やっべぇ、相当キレてんな。


「こっちゃ四天王やねんで? 普通さあ、それなりの受け入れ態勢があって然るべきやんなあ? それを……」


 長くなりそう。


 というかこれは、説教だな。


 無理もないか。相手の口上も全く聞かずにいきなり攻撃仕掛けたからな。俺、めっちゃ怒られるんだろうなあ……


 怒られたくないなあ……怒られないためには……どうしたらいいかなあ……


「イヤーッ!!」

「サヨナラーッ!!」


 結局俺は怒られたくないので再度カルナ=カルにファイアボールを撃ちこむことにした。とうとう許容量がオーバーしたのか、三回目のファイアボールを喰らったカルナ=カルは派手に燃え上がり始めた。辺りには火葬場みたいないや~な匂いが充満する。


「すごい、さすがは勇者様。あの四天王最強と言われる一撃絶命鉄宝流空手最高指導者、黒鉄のカルナ=カルア十段を一方的に倒してしまうなんて……」


 羨望の眼差しで俺を見上げながらクッコロさんがそう呟いた。そんな名前だったのかアイツ。一番最初に出てきたからてっきり「四天王の中でも最弱」とかいうのかと思ったらあれで最強なのか。案外魔王も大したことねーかもな。


 いやいや、油断は大敵だ。


 さすがに四天王というだけあって一撃じゃ死ななかったしな。たとえばあいつが百人くらい同時にかかってきたりしたら俺もちょっとは危ないかもしれない。


 もしくは遠く離れた場所から大陸間弾道ミサイルを撃ってきたりだとか、法的手段に訴えてきたりしたら俺も相当苦戦するだろう。手ごわい敵だった。


「恐ろしい奴だった……カルアミルク、お前の事は決して忘れない」


「忘れないどころか間違えて覚えてますよ、勇者様。

 それにしてもあのカルナ=カルアを軽くあしらうなんて、さすが勇者様です♡」


 そう言ってクッコロさん……じゃなかった、イーリヤ? だっけ? うっとりした表情で俺の腕に抱き着いてくる。どうやらさっきのカルアミルクとの戦いで鎧が破損してなくなってしまったようで、柔らかい感触がダイレクトに俺の腕に伝わってくる。いかんいかん、おさまれおさまれ。


「さすがは勇者殿。しかし慢心はいけませんぞ」


 国王陛下が話しかけてくると、イーリヤは我に返ったのかバッ、と俺の腕から離れる。さすがに父親の前でイチャイチャはまずいわな。


 しかし実際これだけの実力差があるんなら魔王なんて屁でもないだろう。


「噂では魔王もまた異世界より召喚された存在、勇者殿と同じく異能を持つ者らしいのです。なんでも元の世界ではタワンティンスーユという帝国の初代皇帝だったとか」


 マジかよ。じゃあ俺のアドバンテージないじゃん。


「おいベアリス、どういうことだよ。俺以外に転生者がいるのか?」


『いや……特に聞いてないですけど』


 俺だって聞いてねーよ。頼りになんない女神さまだな。


『もしかしたら私と敵対する邪神が暗躍でもしてるのかもしれないですね~』


 投げ槍だなおい。そんな事実があると前提が変わってきちゃうじゃん。俺はサクッとチートで無双して敵を倒したいんだけど?


「ん? イーリヤはどこに?」


 ふと、俺は異変に気付いた。


 さっきまで俺の周りをうろちょろしていたイーリヤがいない。どこに行ったんだ?


「ほっほっほ、そんなにも我が娘の事を気にかけて下さりますか、勇者殿」

「そんな前置きはどうでもいいから! イーリヤはどこに行ったんだよ! すげーイヤな予感がする」


 まさかとは思うが……またどっかでくっころしてるんじゃ……


「お、落ち着いてください、勇者殿。此度の戦いであなたのお力はよく分かりました。しかし相手は魔王、同じ転生者。さればこそ……」

「だから前置きはいいから!! イーリヤはどこに行ったんだよ!!」


 自然と言葉が荒くなってしまう。陛下は驚いて俺をなだめるように努めて落ち着いた言葉で話そうとする。


「その、魔王を倒すには我が王家に伝わる伝説の『聖剣』が必要だろうと。イーリヤはそれを手ずから渡したいと、宝物庫にそれを一人で取りに向かいました」


 一人で!? くっころの自覚なさすぎだろう。城の中だからって安心できないんだぞ、ここのセキュリティは!!


 俺は宝物庫の位置を聞いてすぐに走り出す。


 嫌な。嫌な予感がする。

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[気になる点] 主人公がケンジ…… あたしもケンジっていうの……^_^; [一言] ぎゃぼーっΣ(・□・;) ページめくるの怖いーっ!!
[良い点] えっええっえっ!? きちょ……おっぱい……( ;∀;)まさか
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