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エンタシスの柱の下で

「にいちゃん随分好き勝手やってくれたみたいやのぉ」


「あ、いや……へへ」


「なにがおかしいねん」


「あ……いえ」


 俺は、今……


「とりあえずアレやな、事務所行こか」


 ヤクザに絡まれている。


「あっ、いや~……事務所は、ちょっと」


 それも異世界でだ。


 エンタシス柱に支えられた白亜の屋根。ギリシャの神殿の様な石造りの建物。神殿の外は白く煙っており、何があるのかはよく分からない。余りにも現実感のないその景色は雲の上の神の世界を想起させる。


 その神殿に、あまりにも不釣り合いな男。


 パンチパーマに金縁眼鏡、派手な黄色いスーツにこれまた派手な紫色のシャツ。いったいどういうコーディネートなのか。ネクタイはしておらず、代わりに昔の近鉄バファローズの選手みたいな金のネックレスをしている。


 完全にヤクザだ。


 何故異世界にヤクザ。


 おかしい。


 さっきまでは確かにヤクザではなく女神がいたはず。現世で死んでしまった俺の転生を担当してくれたいた、北欧系銀髪美少女のベアリスという女神さまがいたはず。それが何故、ヤクザに?


「にいちゃんやろ? 6回もチェンジしたゆぅん非常識なアホは」


「あっ、いや~……」


 どうしよう、あまりの事に言葉が全然出てこない。ヤクザこええ。


「あの……ほんますんません、お兄さんはその……どういう……?」


「やっさんって呼んでくれや」


「あ、ハイ。あの、ヤーさんは……」


「やっさん、や!!」


「あ、すんません。

 あの、やっさんは、どういう、その、お仕事の方で……」


 もうなんか言葉を口にする前に必ず「あ」って言ってしまう。


「女神や」


「え?」


「せやから女神や」


 は?


 これはちょっと新しい概念が来たぞ。


 女神? このヤクザが?


 女神って……こう……女神じゃないの? もっと、こう……女神じゃないのかな? 俺の知ってる女神はもっとさ……なんだろう、女神、って感じなんだけどなぁ。


「まあ、アレや」


 やっさんはダルそうな顔で口を開く。


「自分が好き勝手チェンジしくさってくれるさかいな、ベアリスにはちょぅ荷が勝つんやないか? ゆう話んなってな。

 こうして女神のケツモチが出てきたっちゅうわけや」


 女神ってケツモチがいるもんなの?


「まあ俺もアレや、転生関係のシノギは随分しとらんから分からんとこもあるけどな?」


 転生関係のシノギ? 転生ってシノギなの?


「こうなったからにはしっかりサポートさせてもらうから、まあ大船に乗った気でいてええで。ブヘヘヘヘ」


 ドロ船ですやん?


 ていうか、え? 俺ヤクザのサポートを受けて異世界に送り出されるって事? それは……アレなの? いいの? 反社ですよね? ペナルティとか受けることにならない?


 いや、待てよ、もしかしたら違うのかもしれない。ただ単に外見がヤクザっぽいっていうだけで、実際にはヤクザじゃないのかもしれない。さっき自分で女神って言ってたし。


 まあ、女神はケツモチとかシノギとか言わないと思うけど。女神という概念がゲシュタルト崩壊しそう。


 とはいえ。


 もうこれはアレだ。直接聞いてみるしかない。


「あの、やっさんのお仕事っていうのは、その……なんなんでしょうね?」


 半笑いで俺はそう問いかける。ここでまた「女神」とか言われたら振出しに戻るけど、何も聞かないよりはマシだ。


 やっさんはすぐには答えずに懐から煙草を取り出し、火を点けてぷかりと煙を吐き、そして大きくため息をついてから話し出した。「溜め」が長い。


「あんなぁ、にいちゃん。

 新法が出来てから、うちらもえろう仕事やりにくぅなってきとんねん。それこそ自分の職業がなにか、も言えへんねん。あんま(こま)いことは聞かんといてや」


 ああ~……暴対法……


 そんな話をしていた時、神殿の外から車のエンジン音が聞こえてきた。


 振り返ってみると、そこに停車したのはフルスモークで黒塗りのベンツ。運転席からは背は低いが、がっしりとした体格の、顔に傷のある丸坊主の男が下りてきた。


「うス、アニキ。お迎えに上がりました」


「おうサブ! 来たか」


「え? え?」


 ぐいぐいとやっさんが俺の背中をベンツの方に押していく。ちょっと、なんなの? 私そんなに安い女じゃないわよ!


「とりあえず込み入った話になるさかい事務所行くで。ホラ、はよ乗れや」


「えっ!? ちょちょちょっと! ほん、ホント、事務所は勘弁してください!」


 マジか! 事務所の話本気だったのか! ダメだ。絶対この車に乗ったらダメだ。人生終わる。とっくの昔に終わってた気もするけど。


 しかし後ろからはやっさんが背中を押し、サブは後部座席のドアを開けて待ち構えている。前門のヤクザ、後門にもヤクザ。絶体絶命の状況だ。


「ちょっ……ほんと、ほんと今日はあの、体調の奴もアレなんで」

「ええからはよ乗れや!!」

「あっハイ」


 こうして俺は、ヤクザに拉致された。


 異世界で。


 なぜこんなことになったのか。自分自身それを完全に把握しているわけではないが、もう一度記憶の底から過去の出来事を掘り起こしてみることにしよう。


 話は半年近く巻き戻らなければならないが、最初から話すべきだろう。全ては女神ベアリスの頼みで異世界を救う様に言われたところから始まるのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがです! 初っ端から色々とツッコミたいのに、ツッコマせずに話を展開させて行く手腕! トンデモない展開…期待しております!
[良い点] 新連載おめでとうございます! おっぱいの嵐にぐっと心を掴まれました。 とても大事ですね、おっぱい(*^ω^*)
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