1-3 決戦の時
私の1日は始末書で始まり始末書で終わる。ああ今日も素晴らしいなぁ....
あのあと目が覚めた隊長にめちゃめちゃに怒られて、その隊長と一緒に署長にめちゃくちゃ怒られた
だが反省はしない、身を守るためにはしょうがないからな、今は始末書300枚を書かされてる、普段なら3000枚とかなんだけど、最近の怪異の活発性や今回の怪異を考慮して300枚に減らしてくれた。なんて良心的なんだ。
JR◯日本と大違いだな〜
そういえば塩ショットガン結構効果あったな、あれタクティカル改造できないかなぁ、あっそうだ、この前近くの100均で買ったおもちゃのグレネードに塩拡散取り付けられないかな、ちょっとパソコンいじろうっと
「お?塩田くん、随分面白いもの調べてるじゃないか〜」
そう話かけてきたのは黒田先輩、こう見えても30歳くらいなのだ(身長154cm)
「あっ先輩、始末書は書き終わったんですか?」
「あんなのサイン会みたいなもんだよ〜?20分あれば終わる」
「あはは....」
頭良すぎぃ、いや作業効率高すぎぃ
「まぁそんな暇人な私が可愛い可愛い後輩の願いを聞いてやろうぞよ」
「ほぉ?なら....」
カクカクシカジカ
「ふむ....塩爆発グレネード、タクティカル塩ショットガン、対爆ガラス、これは...ふふっ実に君らしいね」
ちょっとキャラ変わった?って並に先輩の表情が変わる。
「よし、じゃあこれは1週間以内に作ろう。その間にちゃんと始末書書いておくんだよー」
そう言ってこの冬の時期には珍しい開放的なオフィスを出て行った。わ
「大関先輩は....あっ頑張ってください」
始末書の代わりにオフィスの片付けをやらされていた。実は例の移動斬撃を避けられた時にスプリンクラーを破壊したらしく、時間差で水が噴射されてたまたま説教中の署長に直撃、ヅラがPONしたのでブチギレ、というわけで業者は呼ばないで大関とその他の人達だけで修理しろとのこと。
「はぁ....ついてねぇなぁ」
落ち込む先輩に声を掛けても意味なさそうなのでやめた。
「さて、始末書書かねば」
このあと2日でちゃんと始末書を書き終えました。
「そろそろまた攻めに行ってみましょうかね....力も蓄えたし、いつでも殺れる。」
こんなことが起きていたその時あいつは何をしていたか…
あのあと、キャンプ場跡に逃げて攻撃を受けた部分の再生をしていた。
「くそっ、あんな奴らがいたとは…」
そいつは、あの山に足を踏み入れナニカに囚われた。我々にとっては遠い昔の話ではあるが、そいつにとっては地獄だ。恐らく、あのような強さはかつて囚われる前の恨みや憎悪に加え、囚われた間の苦痛が霊力に反映されたことにより強くなったと考えられる。
「次あった時は必ずお前達を始末してやる…」
そいつは私たちを始末し損ねたことにより、さらなる憎悪を抱え強くなっているだろう。
そして、数日ほどたったある日…
「さあてと、行きましょうかね。」
「そうだな」
「あぁ」
個々が口を揃え、いよいよそいつとの最終決戦の日である。この日のために、対抗手段を多く考えた。
まずは、そいつの高い霊力に対抗するためにはだ。そこはもちろん霊力には霊力!狐坂の霊力で対抗する。
続いてはどう撃破するかだ。あいつと最初に戦った時、なにかしらの能力で対象を眠らせることが可能だと分かった。であれば、相手と距離を取って戦うことが重要だ。攻撃を当てるには、やつは行動スピードは遅いものの回避スピードは早く、塩ショットガンが当たらなかった。であればやつが他人に注意を向けている際に攻撃をする!このために塩ショットガンを改造したと言っても過言では無い。他に憂慮する点は…やつの能力だ。霊体であり、他人を眠らせる。
他に考えられるとしたら…。
人間の恨みの力は恐ろしい。恨みだけで人1人は余裕で殺す。なおかつ、やつは何年もの恨みを持っている。今までのやつとは比べ物にならんな。やつはほぼ悪霊と言っても過言では無い。恐らく、あそこに来た人間を食らってより多くの魂、怨み、負の感情を取り込んだ。覚悟して戦う…。それだけだ。
最後は…撃破には関係ないが、やつが言っている「こっちの世界」「結びが切れない」といった言動だ。やつは一体何者でどこから来たのか?また、「別の世界では最後に祓われて終わりなんですよ」
といったことから、恐らく別な世界から来た霊(?)と思われる。
まぁ、最後のは私の疑問であり、考察だ。気にすんな。まぁみんなで話し合ったことは他にも多くあるがざっくりまとめるとこんな感じ。なんやかんやあってできた
「対最終決戦(仮)」
が完成した。
そして…
「よお!あん時の借り、返しにしたぜ。今度こそは絶対に倒してやる!」
「よくもまぁ言ってくれますねえ!もういい!演技をするのはやめだ!全力で相手してやるから覚悟しやがれゴミども不勢が!」
相手は相当ご乱心のようだ。以前戦った時と比べて全然霊力も気迫も違いすぎる。絶対殺すマンだな、まるで。
もうこうなったら死ぬ覚悟を決めてやってやるよ!覚悟しやがれ!
塩ショットガン(魔改造済)で牽制しつつ、霊力を込めた拳銃を撃つ。
と言っても所詮は回転式拳銃。低威力の銃弾でペチペチ叩くくらいしかできない。せめて自動式拳銃を寄越せよ。お役所仕事か。
―――だが、今回に限りそれでいい。低威力で良いのだ。狐坂の霊力をこれでもかと詰め込んだ特大の一撃も又、発射されるのはこの回転式から。油断すればいい。いや、油断してくれなくては困る。
「その程度か!特殊警察などと銘打っても、所詮はその程度か!」
侮蔑というか、嘲りというか。とにかく、見下した様な言葉。まだ演技できる冷静さが残っているのか、それとも本当に見下し始めたのか。それはわからない。
「生憎とお偉方がこれしかくれなくてね!お陰でこの有様さ!」
油断を誘う様に、キルゾーンに誘い込む様に。私達はそれを意識して戦う。
「さぁて、一人一人、先日の借りを返しましょうか」
そう言うと、一番近くにいた大関に躙りよる。
「っ!」
近寄られた大関は、咄嗟に拳銃を仕舞うと抜刀する。居合道六段の抜刀術は伊達ではない。剣術で右に出る者はいない(自称)だけの事はある。
ギィン!
そいつは斬撃を腕で受けた。とても腕で受けたとは思えない音だ。化け物を相手にしていると、改めて実感させられる。
牽制用に撃っている塩ショットガンも、散弾が炸裂する前に式神(使い捨てタイプ)に叩き落される。牽制になっているかは疑問だ。それでも、油断を誘い、キルゾーンへの誘導はできているらしい。そいつは次第に狐坂が待ち構える山林の中のある座標に移動していた。今か今かと、狐坂が首を長くしている。
一方の大関は、ズタボロだった。前回とは違い簡単に眠らせるつもりはないのか、大関は体中が傷だらけになりながらもまだ意識を保っていた。制服も、後ろに結んでいた白髪混じりの髪も、今ではぼろぼろである。
彼の犠牲(?)と引き換えに、そいつの誘導はほぼ完了した。あとは、狐坂の一撃を命中させるだけだ―――。
その頃の狐坂。回転式拳銃に反動吸収用の銃床(黒田作)を取り付けたそれは、第一次世界大戦の時のマシンピストルによく似ている。回転式に銃床を取り付けた国は無いが。
弾丸の大きさは同じ。発射速度もほぼ同じ。違うのは内包される霊力のみ。銃床を付けたのは一発必中のソレを決して外さぬ為。
狙撃兵の気分を味わっている狐坂は、彼女の先輩達がそいつを連れてくるのを待っていた。緊張を押し殺し、ただ、その時に備える。言うのは簡単だが、実践できるものは僅かだ。
「―――来た!」
狐坂の視界に、ズタボロの大関と、片手で塩ショットガン(魔改造済)、もう片方に刀を握った塩田、拳銃をペチペチ撃ち続ける黒田。そして、その3人を相手に余裕を見せるそいつが入る。
塩グレネードが炸裂したら撃て―――
塩田からこのように言われている狐坂はそいつを補足し続けた。霊力が最大まで凝縮された銃弾を、いつでも発射できるように。
「っ!」
塩田はギリギリのところで攻撃を躱し、受け流していた。最早戦線離脱を余儀なくされている大関に代わって標的にされたのだ。
「へっ!殆ど当たりもしねぇな!今まで何していたんだ!?」
塩田が挑発する。
「えぇい!すばしっこい!貴様など私にかかればぁ!」
挑発に乗せられたそいつは動きがかなり直線的になる。そいつが塩田に組み付いた。
瞬間、塩田が塩グレネードを地面に叩きつける。信管が作動し、炸裂。動きが止まったそいつを―――狐坂が見逃すことは無かった。
パァン!
乾いた音が響く。拳銃の銃声だ。銃声自体に変な所は何も無かった。変わっていたのは、籠められている霊力。黒田が撃っている標準タイプの弾丸の、優に数百倍を超える霊力。直径九ミリの弾丸に凝縮されたソレが、そいつの体に直撃した。
「死ねぇぇぇぇエギャッ!?」
そいつは罵声を悲鳴に切り替え、そのまま倒れ伏す。
「な…何が…私は最強の筈。現にこいつ等は私に勝てなかった…なのに…何故…」
そいつはもう息も虫の息だった。だが、確実に生きていた。
「凄いものだな。あれだけの霊力をくらって、死なないどころかまだ意識がある」
組伏せられていた狐坂が素直な感嘆を示す。
「確実に息の根を止める為に、想定の二倍は霊力を籠めたのだが…。まあ良い。意識があるならここで尋問と行こうや」
塩田が塩ショットガン(魔改造済)を突き付ける。
「先ずは…そうだな。君は誰だ?覚えていることを洗いざらい話してもらおう」
最早諦めたのか、そいつは反抗する素振りを見せなかった。
「私は…別の世界から来た人」
その言葉を皮切りにぽつりぽつりと話していった。
そいつ改め、社の言うところによれば、彼女(どうやら本当は女らしい。何故かこの世界では男の体に魂が入っているが)はこの世界とは別の平行世界に住んでいたごく普通の人間だった様だ。
ある時に友人達と共に心霊スポットに足を踏み入れたのがきっかけで地蔵を抑える為の社にされたと言う。
恋慕う人に気持ちを伝えられぬまま、取り込まれた事が何よりの心残りで、逃れられない絶望感と伝えられない哀しさとを拗らせ、次第に恨みに変わっていったようだ。
子供達二十人を操っていたのは同じ様に取り込まれた相原という人間で、彼女との関わりは無い模様。ここ迄感情を拗らせた直接の原因は元の世界の社で祓われてしまったこと。そこに残した手紙も、想い人の手に渡ったかどうかは怪しいそうだ。
ここまで話した彼女は、憑き物が落ちた顔で一言、「すみませんでした」と言って気を失った。どうやら限界の様だった。
「何というか、ただただ救いの無い事件だったな」
署に戻った後、柳沼以下塩田を除く課員全員が集まり、今回の事件の顛末について話していた。山林の中で気を失った彼女は塩田監視のもと、霊力を封じる結界の中で寝ている。
「今回暴れた…社と言いましたか。彼女も…ある意味では被害者なんですよ。ただ、運が悪かった」
「えぇ。ですから…」
課員たちがここまで話したとき、塩田が血相を変えて飛び込んで来た。
「大変です!社が…社が姿を消しまし「どういうことか!」」
塩田の言葉が終わる前に、柳沼が大声を出す。
「そっ、それが、社の体がいきなり光りだしたと思うと、なんと言いますか、可愛らしい少女の姿になって、そのまま消えてしまったんです」
「そんな事があるか!…いや、我々は都市伝説を相手にしているんだったな。常識で考えてはいかん」
柳沼は一時激昂したが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「それと…」
柳沼が落ち着くのを見計らい、塩田が折り畳まれた紙を差し出す。
そこには「お騒がせ致しました。挨拶もなしに立ち去る無礼をお許し下さい」と記されていた。
彼女が無事に想い人に逢えたのか。知っているのは彼女自身だけである。