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ジャンルを変えてみた

「ちょっとタマ」

「なぁに、ユカ」

 西日の差し込む放課後の文芸部。

 木目調の長机を挟んだパイプ椅子に、二人の女子生徒が座っていた。

 声をかけたのは三島由香利(みしまゆかり、姫カットの黒髪の乙女。

 もう一人は土間珠美(どまたまみ)。胸元のリボンをちょっと崩す行為にドキドキしているメガネの地味子である。


 由香利(ユカ)はスマホの画面を操作しながら、珠美(タマ)に少々怪訝な様子で声をかける。


「タマの書いた新作、『ギャラクシーナイツ★サーティン』だっけ」

「うん。読んでくれた? アクセス数が増えてたからユカかなって」

 銀河戦士と書いてギャラクシーナイツと読む。12人の騎士と主人公プラス1の物語である。


 タマは上機嫌。

 書き手にとってアクセス数は栄養です! と言わんばかりにタマはユカに向き直った。

 今のところブックマークは2、アクセス数は二日で50ほど。だが、充足感が違う。連載開始の高揚感、もしかしてランキングに載ってしまうかもしれないという甘美な妄想が止まらない。

 読者様からの喝采、世界から認められている。

 あたしはここにいる……! 

 想いが、誰かに届いたことを確かに感じる。

 これこそがウェブ作家としての至高の喜び。いや……ぬか喜び。


「アクセス数の増減なんて見てるの?」

「アクセス数24から25に増えてたもん」

「そ、そう」

「で、何?」

「あのあと、小説のジャンル変えた?」

「変えたよ、ファンタジーは止めたし」


 なるほど、とユカも納得する。どうみたってファンタジージャンルではない。


「あれはどうみたってSFよね」

「『恋愛』ジャンルに変えたの」

「はぁ!? SFじゃなくて?」

「だって、恋愛要素強かったし」

「そうかな?」

「そうだよー」

 微笑みながらノートパソコンの画面をユカに向ける。


 そこには『銀河騎士(ギャラクシーナイツ)★サーティーン』の「あらすじ」画面が表示されていた。


 ――私の名前はサーティーン。銀河連邦の見習い宇宙騎士の候補生! 女の子なのに宇宙騎士を目指している私は、いつも宇宙悪役令嬢のユカリオに苛められてうえーん(。´Д⊂) そんなある日、SSSランクの銀河十二騎士の一人、タマミリア様に助けてもらっちゃった! そして弟子入りすることに……!

 周囲は超絶美形な銀河十二騎士だらけ。

 はわわ!? 私、どーなっちゃうのぉ!?


「はわわ、じゃないわよ。何よこれ」

「えへへ、あらすじをちょこっとね」

「ちょこっとってレベルじゃないでしょ」

「本文はそんなに変えてないんだけど」

 原形留めてないでしょとユカが視線でツッ込む。


「昨日のあらすじは?」

「SFに憧れて、つい」

 タマはてへへと頬をかいた。

 ハードSF風にしたけれど、アクセス数は壊滅的。そこでつい「ファンタジー」ジャンルを選択したけれど、実はSF恋愛ものでした的に「恋愛」ジャンルに変更した……なんてユカには言えないなって思っていた。


 ユカはため息混じりに天井をあおぐ。

 別に小説は自由。書きたいように書けばいい。

 ツッこみどころは満載だけど、最初のよりはマシというか、面白いかも……と思ってしまった。なんだ宇宙悪役令嬢って。と内心ツッ込みをいれた自分が悔しかった。


「いいんじゃない? 好きなように書けば」

「よかった。アクセス数も増えたんだよ!」

「そうなんだ」

「58アクセス」

 多いのか少ないのか。ユカのアクセスも加算されているのだろうと思うといたたまれない。


「もう、タイトルも変えたら?」

「ユカもやっぱりそう思う!?」 

 タマが身を乗り出してきた。

 すでにタイトル変更を考えているらしい。

 銀河騎士(ギャラクシーナイツ)★サーティーンではいささか硬い。


「何か案はあるの?」

「じゃーん。実はね」


 パソコン内のメモ帳に、新タイトル案が記されていた。


 『見習い騎士は見た! ギャラクシーナイツの秘密!? オメガバース★開発秘話と逆ハーレムを羨む宇宙悪役令嬢の逆襲!』


 酷い、ひどすぎる……。

 プライドも何もないのか。

「恋愛要素は?」

「オメガバース」

 それは違う! とユカは叫んだ。


 タイトルの付け替えはよく考えよう。それが今日の文芸部の結論になった。


タマ「宇宙騎士は美少年で開発済みなの」

ユカ「その設定は別サイトでやりなさい」


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