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心の破壊者ーCordis Destruction  作者: :/XUEFEI
:000/始まり
4/39

:004 異形

挿絵(By みてみん)


「殺す」


 ロネリーは剣を手に、黒髪の少年へ一直線に向かう。


「ちょ、ちょっと待って!」


「待たない」


 状況を飲み込めていない少年に、ロネリーは容赦なく剣を振り下ろす。

 少年は黒い手で咄嗟に自分を守った。


「!」


 鋭い剣が混じり合う音が響き、金属音とともに剣が弾かれる。


(硬いな……)


 ロネリーは思った。予想よりも厄介な爪。「チッ」っと、軽く舌打ちをした。


 見た目とは違って黒い粒子の硬化体はロネリーの剣を通さない硬度と鋭さを持っている。

 その性質について少年自身はまだ把握しきれていないが、ロネリーに二の太刀を躊躇させるには充分だった。ゆっくり一歩、少年の右へ周る。

 ロネリーは少年の左腕を暗黒物質と認識し、尚も殺意を緩めていない。それを抑える術も意志も無く、攻撃の好機を伺っていた。


「言語は話せるようだし、理性もあるみたいだが……」


 そして更に三歩進み、再び、ロネリーが剣を振るおうとしたその時。



 ――グオオオオオァアアアアアア!



 大蜥蜴の咆哮が、緊迫した空気を引き裂いた。


 空気が振動し、突然地面が盛り上がり、少年と似た粒子に纏った巨大な蜥蜴の様な化け物が巨体を起こしていた。化け物は腹の六つの目で二人を睨みつけ、獲物を捕らえたかのように大きな口を開きながら二人目掛けて突進してくる。


「クッ、仕留め損ねたか……!しぶとい奴だな!」


 ロネリーは一度身を引いて突進を躱す。黒い少年も風圧で後方へと突き飛ばされた。


 ロネリーは大蜥蜴に体を向けた。

 背後の少年への警戒を解いてはいないが、大蜥蜴を優先する事を即断していた。

 それは焦りではないがロネリーにとって論理的な判断でもない。それ故に別の惑いを内包している判断だった。


(……あれも、暗黒物質……?)


少年はその化物の姿を自らの異形の左腕と重ねた。自分自身の正体に頭はまた思考を拒絶するが、その間にも事態は悪化していく。

 “化物”は腹の六つの目で二人を睨みつけ、獲物を捕らえたかの様に、大きな口を開き二人へ再び突進してくる。


「……こいつ、さっきより大きくなっているのか?」


 先程戦っていた時よりも大蜥蜴は一回り程大きくなっていた。


「あの一撃で確実に核を消滅したと思ったんだが……」


 疑問は積もるが地面を破壊しながら突進してくる化け物に対し考える余裕はない。ロネリーは人間離れした速さと高さで跳躍し、大蜥蜴の背中に飛び乗り、剣を突き刺した。


──が、


「!」


 剣は僅かに大蜥蜴に傷を付けるがそれは些細なダメージをも与えていない。切っ先はその体に突き立てられる事はなかった。

 大蜥蜴は悲鳴にも似た耳障りな叫びを上げながら、体を大きく暴れ揺らし、ロネリーはまた地面へと落とされた。

 その大暴れで壁には穴が空き、雨の降りしきる外の景色が見えた。


(ローダンセの切れ味が落ちた……いや、強くなったのか?この蜥蜴が)


 ロネリーはそう考えるがそれはどちらも正しかった。最初の印象通り、ロネリーの剣は切れ味を鈍らせている。

 それはロネリーの深層心理に起因するローダンセの特性だったが、その可能性には気付いていない。

 戦闘中に感情が揺らぐ事など、今まではなかったのだから。


「ローダンセ、チェンジナンバー008」


 その命令で剣は形を変え、ランス型へとなった。

 更に暗黒物質を活性化させている大蜥蜴へ向ける。


 その光景を目にしていた少年は唖然と立つ尽くしていた。

 突然崩壊した世界で目覚めた事に困惑し、自分の姿に困惑し、突然の状況に困惑する。自分が何者かも分からないままに殺されそうになった。そして今度は異形の化物が暴れている。

 目の前で繰り広げられている光景が何なのか、自分が一体何者なのか。何も分からないまま時間が、全てが進んでいく。


 ――僕は……一体どうすればいいんだ。



「キミは戦えばイイ」


 背後から、声がした。

 それは機械的で無機質な音声で、少年の思考を断ち切った。

 声の方を向けば、自分をこの場所まで連れてきた黒うさぎの姿があった。

 黒うさぎは何処から取り出したかわからない、身の丈に合わぬスナイパーライフルを構え、機械の目でスコープを覗いている。


「キミは戦えばイイんダ。目覚めたからにはそれしかイキる選択肢はない」


(戦えだって?)


 言われて少年は自分の左腕を見た。それは確かに、戦う為の異形の爪。獣のそれの様な爪だった。

 この崩壊した世界で目覚め理不尽な状況に落とされているのは事実であり現実であり、それは変わらない。

 ならば自分が何者かを知るには生きるしか道はない。

 自らの存在意義を得る為にも――。


 黒うさぎの戦闘行動には一切の淀みは無い。余計な感傷が危機を齎す事を知っているかのように動作に躊躇いなく、そしてスナイパーライフルで正確に大蜥蜴の六つ目の一つを撃ち抜いた。

 

 戦場において、標的を定めた者は絶対に外さない。精密射撃には自分が動けないという致命的なデメリットがあるからだ、もし外した場合危険に晒されるのは自分である。            


「イマダ」


 その一言で少年は何も考えずに走り出した。ここで戦わなければ、何も知る事なく終わると思った。

 大蜥蜴は咆え叫んでいる。

 少年の感情が昂ぶる。そしてそれに呼応しているかのように、左腕はより黒く大きな爪へと変化していった。


「あの左手……!」


 ロネリーは黒髪の少年の攻撃に備えたが、少年はロネリーには目もくれず大蜥蜴だけを見ていた。


 そしてやがて少年の左手から広がった黒い粒子は、左半身全てを覆った。

 少年は漆黒の粒子の中に赤い目を光らせ、狙撃され顕になった大蜥蜴の核を、その爪で一気に切り裂いた。

 粒子が凝縮された中心部の核を砕かれた大蜥蜴は、咆哮も無く動きを止め、その傷口から黒い塵となっていく。

 やがて化物の塵は風の中に消え、静かな雨音だけが後に残った。


「……何を」


 ロネリーは少年を見て、言葉を出しかけて止めた。

 少年は荒い息を繰り返している。左半身を覆っていた黒い粒子も引いていく。明らかに、戦闘状態が解かれていた。

 そして静かに床に座り込むと、少年はそのまま意識を手放した。




 ロネリーは無防備な少年にランスを向けた。

 しかしロネリーの意志に反し、ランスは髑髏へと姿を戻した。


(くそ、武器の姿が保てない……俺も疲れているのか……)




 と。

 通信機から短いノイズ。後、聞き慣れた声。



 ピピッ……ザーッ



『あーん、ロネリーくんやっと繋がった!お姉さん心配してたのよ、なかなか繋がらないし暗黒物質の反応が大きくなるばかりだったから何かあったんじゃないかって、慰謝料として帰ったら私の実験台になって貰うからね』


 相変わらず緊張感の無い能天気な声に、ロネリーは軽く溜め息を吐いた。


 通信機から聞こえる声にロネリーは溜め息をついた。


「任務完了です、目的地には着きました。これから物資を回収して戻る……予定なんですが……」


『ん? 何? 何か合った?』


「……いや、変な奴が……その、破壊しようとしたんですが、今“エリス”がそいつを庇ってて、どうします?」


『ふふっ、へぇ……面白そうじゃない。その子も一緒に本部に回収を頼むわ。私の予想が外れていなければとっても重要な存在かもしれないわ……』


「……了解」


 不満そうに、通信機を切ったロネリー。

 倒れて気を失っている黒髪の少年を、左目の青い十字の光が見ていた。




***


「……噛み合わない歯車はそれでも運命を伝えようとするだろう」


 暗い一室に浮かぶ、ホログラムの映像の灯りだけが部屋を照らしていた。

 仮面の男はその前に座り、廃墟施設での一部始終を見ていた。悲劇のオペラを観るかの様に、ルーレットのウィールを見るかの様に。


「世界はやっと、此処から動き出すのだ」


 機械で作られた、雀型撮影機を片手に椅子にもたれ掛かる。


「さあ“HALOハロー”、勝負と行こう」


 仮面の奥で、そっと微笑んだ。

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