:002 兆し
薄明の空に、雲は疎ら。
風は弱く、空気は湿っている。
「報告。F50に到着。引き続き調査を続行します」
『おーけー!引き続きの調査お願いね~我が星の救世主君!でも施設はなるべく壊さないように!帰ってきたらお姉さんの手料理を振る舞ってあげるから~』
壁沿いに慎重に歩く少年の通話機から、緊張の欠けらもない脳天気な甲高い女性の話し声が響き渡る。
白髪の少年は、
「いえ結構です」
少し気怠げに返事をした。
「貴女の手料理は、人体への安全性が保証されているとは思えませんので」
銀髪にサファイア色の右目にはライトブルーの光を煌めかせているが、顔の左半分は黒い機械に覆われ、菱形の左目からは十字架の青い光が強く浮かび上がっていた。
『相変わらず冷たいなぁ、ロネリー君は......そんなクールな一面もお姉さん大好きだわ!』
「いえ、結構です」
ぎこちないやり取りが通話越しに繰り広げられ、一方的な言葉をきっぱりと切り捨てる少年──ロネリー。
『またまたそんな事言っちゃっt』
終の言葉を待たずに通信を切り、銀髪の少年――ロネリーは、薄暗く無機質な廃墟施設の中で一人静寂に戻った。
ロネリーの肩の上には、髑髏が浮かんでいた。それはビビットブルーの目を持った見るからに不気味な存在であったが、ロネリーはそれを日常の景色として気に留めていない。
視線を、床に落とした。そこには“黒い”蜥蜴の群れが転がっていた。その全ては両断されていた。
ロネリーが一瞥し歩き出す頃、それは黒い粒子となり宙へと舞い消えていった。
***
「ここは出口じゃない」
出口だと思いこんでいた景色は廃墟ビルが何重にも詰み合わさった崩壊した世界。しかもここは何階だろうと思わざるを得ない底なしの高さ。瞬時に悟った。ここは出口じゃないと。
(他の道を探した方がいいな)
諦めて暗闇に戻ろうとした時、数メートル近くでタッタとこちらに近づく足音がした。一歩ずつ音が大きくなる。やがて足音が止まり光で露わになったのは、全身黒いマントのような羽織に身を包んだ不思議な機械目の黒いうさぎのぬいぐるみだった。
困惑する少年の足元でじっと機械仕掛けのような目で見つめ、やがてサッとまた暗闇に消えようと思われたが、適度な距離でまたこちらを見つめていた。
「僕について行って欲しいのか......?」
少年の問いに頭を縦に一回揺らし頷く動作をするのが見える。少年は行く当てもなく、着いていく他に選択肢は思いつかなかった。
(一体どこに連れて行かれるのだろう)
少年は歩き出す。微かな期待を胸に。黒うさぎを追った。
外の空では、雨雲が光を遮っていた。