ブラウン管テレビにトン・バン・ドン
「こら、ケンタ!」
今日もママに怒られた。
僕のプリンを勝手に食べたミオが悪いのに。
ミオの顔もママの顔も見たくなかったから、僕は屋根裏部屋に隠れた。
初めて上がった屋根裏は薄暗くて、静かで、怖かった。
不安で泣きそうになった時、部屋の奥に置かれた古いテレビから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
つまみをひっぱるとブツッという音がして画面に何かが浮かんできた。
「おお、ケンタか?」
テレビに映ったのは、去年死んだおじいちゃんだった。
「おじいちゃん? なんでテレビの中にいるの?」
「ケンタこそ、こんなところで何をしてるんだ?」
僕は屋根裏部屋に来た理由を話した。
「そうか。それなら話し相手になっておくれ」
それから僕達はいろいろなことを話した。
「ケンタ、晩ごはんよー」
下からママの声が聞こえてきた。
「ほら、ママが呼んでいるぞ。行きなさい」
「おじいちゃん、また会える?」
「ああ。そこのつまみを引いてくれれば会えるから」
おじいちゃんは画面の中からテレビの右側にあるつまみを指さして言った。
「じゃあ、明日また来るね」
僕はおじいちゃんに手を振ってはしごを下りていった。
その日から毎日、僕はおじいちゃんに会うため屋根裏部屋に通った。
おじいちゃんが映っているこの箱は「ブラウン管テレビ」というらしい。
壊れかけていたから、時々おじいちゃんの姿が砂嵐で見えなくなることもあった。
「テレビの上をたたいてごらん」
僕がトンっと軽く叩くと、おじいちゃんが現れた。
テレビの調子が悪くなるたびに、僕はそれを繰り返す。
最初は「トン」と叩くだけでよかったのに、「バン」と力を入れないとダメになった。
一昨日からは「ドン」とグーで叩かないとおじいちゃんの姿は消えたまま。
今度は画面が暗くなってきた。
「……もうお別れのようだ。ケンタと過ごしたこの一ヶ月、とても楽しかったよ」
「やだ!まだおじいちゃんとお話したいよ!」
僕の目に涙が浮かび、おじいちゃんの姿がぼやける。
「ケンタ、1つ頼みごとをきいておくれ」
「……なに?」
「ミオをかわいがってくれないか?じいちゃんの分も」
手の甲で涙をぬぐうと顔を上げた。
「約束する!」
「ありがとう」という声を残し、テレビ画面からおじいちゃんの姿が消えた。
「にいちゃ!」
リビングに行くと、ミオが駆け寄ってきた。
テーブルの上には僕のプリン。またしてもカップはカラになっていた。
…仕方ないな。おじいちゃんとの約束もあるし。
「何して遊ぶ?」
「タイトルは面白そう!」の「ブラウン管」へ投稿する際に考えたタイトル・物語です。
話を膨らませた小説は既に「なろう」に掲載している上文字数が多いので、大賞へはプロト版を応募しました。
気に入ってくださるとうれしいです。