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ポートメーション

作者: 80D

あなたは「  です。」と言った。

それは、名前だけ述べる簡潔な自己紹介の言葉だった。

私は「はい」と答えて、他に言葉が続かないかと待ったが、それ以上言葉が続くことはなかった。

あなたが言葉を発する時、それは必ず、なにか名詞が発せられた後、です、で締め括られる、簡潔なものだった。

あなたが小学生の頃、学校からの帰り道に、「花です」と言ったことがあった。

どこを指差すわけでもなく、視線の先に花があるわけでもなく、あなたはただ家への歩みを止めないまま、花です、と言った。

あなたの声を聞いた私は、眼球だけで辺りを見回して、電柱が突き刺さったアスファルトの割れた皺に、タンポポの花が咲きかけているのを発見した。

あなたがそのタンポポから48歩ほど歩いたところで、私はマンションの傍らに置かれたゴミ箱の下から這って出た。

そのままずるずると地面を移動して、あなたが私のことなど気にかけずに家の玄関扉を開けたところで、あなたが見付けた花の香りを嗅いだ。

顔を寄せると犬の尿の匂いがして、このタンポポは犬の尿を吸って黄色く色付いたのだと思った。

日が暮れたころ、あなたの住む一軒家が燃えていた。

太陽が斜めに着陸したことが原因らしかった。

あなたが「花です」と言ってから、273日経った日だった。

焼け跡から、あなたの歯が発見された。

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