鎮魂の雨
剣鬼の放った次元斬により、魔剣士は息絶えた。次元斬自体、過剰すぎる技であり、剣鬼自身の体への負担も多く、MPも過剰に使用するのは間違いないようだ。剣鬼は膝をつく。
膝をつきながらも、勝利したことへの興奮でハイになっているのか、死んだ魔剣士を侮辱するような発言までして、勝利を喜んでいるようだ。
好敵手と思って戦っていたのは魔剣士だけで、剣鬼自身は魔剣士のことをただの敵としか思っていなかったようにも聞こえる。
次元ごと斬られた魔剣士は、どうやって負けたかもわからないだろう。剣鬼の侮辱が聞こえないだけ、マシかもしれない。
俺が託した剣も魔剣士を守ることが出来ず、武器破壊されてしまった。堕神とは言え、神の持ち物を折る=神と同等になり、この世界の女神は神格化出来る可能性のあるスキルを与えていたのだろう。ほごに報告するが、この女神は有罪だろう。
そして、折れた剣の魔力が解放され、魔剣士と剣鬼の周りに雨が降り始める。
死んだ魔剣士はもちろん、剣鬼の方も雨を気にする体力がないのか、ただ、雨の中を佇んでいる。剣鬼と一緒に来た数名のみが雨に濡れるのをいやがり、少し離れた木陰に避難する。剣鬼自身、子供ではないため、剣鬼自身の体力が回復すれば、当然、近くの木陰に来るだろうと思ってのことであったが、彼らはその時、剣鬼を引き摺ってでも逃げるべきだった。
俺は雨の中に剣鬼を仕留める刃を仕掛けておいたからだ。
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砦を守っていた魔族達は使い方が分かれば有能なスキル持ちが多かったのは救いだ。そして今回使った刃は、「シアン化合物生成」。シアン化合物は水溶性であるため、水によく溶ける。そして、溶けたシアン化物は皮膚から吸収され細胞の呼吸を妨げ、酸素を使えなくし、ゆっくり死んでいく。
俺は飛行魔法が使える魔族を上空に待機させて起き、雨が降り始めると同時にシアン化合物の水溶解品を雨と同じように上空からばら蒔いてもらった。
戦いによって精神が高揚し、肉体が疲弊している剣鬼は毒と気づかず内に、疲れて目を閉じたと同時に死に至る。
人を愚弄し、また、残心をしない剣士は剣士ではない。
二人の真剣勝負を愚弄した俺が言うことではないが。
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俺は剣鬼のことをほごに話す。別行動で女神を調べていたほごも、別の証拠を掴んだようで、女神を連行することに決まった。まだ、女神の過加護を授かっている人間が数名いるが、それも女神を連行し、加護を返還させれば終わるだろう。
と思っていたが、女神はすでに逃亡していた後だった。
女神が管轄している世界の人族の誰かに憑依したようだ。俺たちが過度に住人に干渉すると、神のルールに触れるため、俺たちが人族に直接手は出せないと判断してのことだろう。
犯罪者に対しては構わないと思われるかもしれないが、神の世界では、そのルールが何よりも重要視される。簡単には手が出せないのは事実だ。
神が憑依出来るのは、神の器を持っている住人であり、そうなると勇者パーティーの残った奴らが怪しい。
今まで通り、魔族に加担して女神を炙り出すしかない。