剣鬼封じ
彼女を刺殺したのは、アンデッドに紛れていた兵士であるが、その兵士に使用したスキルが「特殊メイク」。砦の魔族の一人がそういうスキルを持っており、変身魔法と異なり、化粧がうまくなるレベルのスキルと思われていたため、役立たずと自分で思っていたようだ。
まず、兵士達数名には事前にヨウ素系のVXガスにきく可能性のある薬を持たせていたのと、アンデッド風の動きをマスターしてもらい、かつ、特殊メイクによってアンデッド風の容姿にしてもらっていた。
兵士がアンデッドしかいないのであれば、アンデッドの浄化により魂が鎮魂すれば、大司祭の役割は終わるため、必ず隙が出来ると予想しており、その通りの結果になった。
さすがの大司祭も広範囲魔法を連発し、持続魔法を維持しながら自分の回復が出来るほどのMPは残っていなかったのだろう。刺されてすぐに息絶えた。
そして、合わせて次に攻めてくる奴の対策を準備する。大司祭が殺されたのであれば、大司祭に好意を抱いている、剣鬼が敵討ちに来るだろう。また、軍を二度殲滅していることから、人族が軍を出す可能性は低いだろう。もう一回殲滅されるとかなりの大打撃になる。人族も慎重になっているはず。
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剣鬼が来る予想を伝えると、魔王四天王の魔剣士が是が非でも戦いたいという。どうもお互い好敵手らしい。
たまには正々堂々と戦ってもらうのもいいかもしれない。好きこそ物の上手なれで、自分のやりたいことをやれれば、普段以上の力が発揮できる時もあるだろう。
俺は自分が使っている刀を一振り魔剣士に託す。切れ味はいいが、魔剣の能力としては雨を降らすくらいしかないが、彼ならうまく使いこなしてくれるだろう。
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予想通り、砦に来たのは剣鬼と数名。それを四天王の魔剣士が待ち構える予想通りの構図となった。剣鬼自身、1vs1を好んだり、好きな女性のために敵討ちに来たりと、中々好感が持てる男であった。ただ、元の世界で剣も知らず、こちらの世界で授かった剣鬼のスキルの成長に頼りきっているため、こちらに住む住人と比べ、努力らしい努力をしない。また、レベル差を生かしたというか、ある意味ただの暴力で、オーバーキルしてしまうことも多々あった。言い方が悪いとただの狂戦士。
そんな剣鬼と互角に戦えるのが、魔剣士だった。彼は魔剣の力も使う。生まれながらのスキルもあると恵まれている所も大きいが、何よりも努力家で、剣鬼を倒すために並々ならぬ努力をしてきたようだ。魔剣士の方がより、神の器に近いと思える。
そして、1vs1の戦いが始まる。
お互い、全力で剣を振り、全力で守る。剣鬼が攻めの剣に対して、魔剣士は後の先をとる守りの剣。レベル差を利用した剣鬼のゴリ押し剣術をうまくいなす。剣鬼も守りのスキルはあるのか、反撃の剣もうまく受ける。
間合いの外では剣鬼が飛ぶ斬撃を放つと、魔剣士は魔剣の力を解放し、相殺する。
そういった互角の戦いがほぼ1日続いた所で、剣鬼が秘剣 次元斬を放つ。
どうやら、剣鬼は戦闘中の成長スピードも異常に早いようだ。全く見たことない技に魔剣士は少なからず緊張するのがわかるが、その緊張どころか、今まで剣鬼を倒すためだけに磨き上げ、時間を費やしたこと全てが無駄になる。
秘剣 次元斬は、剣鬼が見える範囲を次元ごと、空間無視、防御無視、相手の存在や尊厳すらも無視して斬るチート(クソ)技だった。