転生
どのくらいそうしてうずくまっていたのか...
エスタシアはただ何も言わずに俺を見守っていた。
そういえば慈愛の神だと言っていた。
その愛に満ち溢れた視線を感じ、俺は顔を上げる。
暖かな眼差しと視線が絡まる。
「少しは落ち着きましたか?」
エスタシアの言葉に、自分が我を忘れてふさぎ込んでいた事に気がついた。
「すみません、頭が現状に追いついていなくて...」
待たせてしまった事を申し訳なく思い謝ると、エスタシアは何故謝るのかと不思議そうな顔で見つめた。
「自分の人生の終わりと始まりの場所です。取り乱す事はよくある事ですよ。それよりも、私の予想よりも早く正気を取り戻されたので驚いています。」
エスタシアはふわりと微笑んだ。
なんて美しい人だろう。
あ、神か。
そんな事を考えていると、エスタシアが続けて話し始める。
「転生するにあたって、能力を授かることが出来ます。
あなたは次の人生で何を望みますか?」
そう話すエスタシアを見て、ああこれがあの有名な異世界転生というやつか、と今更ながら思い当たる。
俺も若い頃には憧れた時期もあった。
しかしこんなアラサーの今になってこんな事が自分の身に降りかかろうとは思いもしなかった。
中学生くらいの頃には、もしも異世界転生したらどんな能力を与えて貰おうかと色々妄想したものだ。
だが、あの頃と違い今は現実的な物の考え方が出来る年齢になっている。
「そうだな...俺はとにかく、大事な人を助けられる力が欲しい。
他には何もいらない。俺の大切な人、家族、友人、そんな人たちを傷つける事なく守れる力。具体的にどんな力なのかはわからないが...頼む、もう大切な人が悲しむ姿は見たくないんだ」
最期の時、一瞬見えた日菜の呆然とした表情が目に焼き付いて離れない。
あの子を守ってあげたかった。
守ったつもりだった。
しかし、きっと俺の居なくなったあの世界であの子はずっと苦しんで行く事になるだろう。
誕生日のお祝いをする筈だったあの日。
目の前で事故にあって父を亡くし、それも叶わなくなってしまった。
それも、自分をかばって。
あの子にとって自分の誕生日は父親の命日になってしまったのだ。
それは、あの子の一生に呪いのようについてまわるのでは無いだろうか。
今からでも駆け寄って抱きしめたい。
もう大丈夫だと言ってあげたい。
でも、もう出来ない。
後悔だけが残っている。
「わかりました。では、あなたの新しい人生に神の加護があらん事を。」
エスタシアがそういうと、辺りは眩いばかりの光に照らされ、俺はまた泥のように意識がまどろんでいくのを感じていた。