プロローグ
小説を書くのは初です..楽しんでくれたら幸いです。
俺は恵まれた生活をしていた。
世間では美人だと言われるであろう、ふんわりとした雰囲気の可愛らしい妻優梨。
その妻の隣に立つ、5歳になる娘日菜。
肩よりも少し長い髪を2つに縛り、まん丸な瞳をぱちくりとしながら俺の顔を見上げている。
小さな手を俺に向かって差し出し、にこりと微笑む。
「パパ、早く行かないとバス乗り遅れちゃうよ」
その言葉に笑顔で答え、2つ結びの可愛い頭をひと撫でしてからその手を取り、手を繋いでバス停へと向かう。
「いってきます。今日は早く帰るよ」
「気をつけてね、日菜も楽しみにしてるから帰ってきたらお誕生日パーティーしましょうね」
笑顔で手を振る優しい妻。
今日は娘の5歳の誕生日だ。普段なかなか定時では帰れないが、今日くらいは定時で帰ってこようと心に誓う。
午前7時半。いつもの出勤時間だ。
最寄りのバス停で娘を保育園の送迎バスに乗せてから、俺も職場へ向かうバスに乗る。
まずは娘をバスに乗せるため、バス待ちの列に並んだ。
俺は仕事もそこそこの大企業で、若くして既に中堅クラスまで出世もしている。期待のホープというやつだ。正に順風満帆。
俺は今の生活に何一つ不満など無かった。
もう少し早めに帰宅出来れば完璧かな。
幸せとはこういう生活のことだろう。
ありふれた日常。
可愛い妻と子供。
隣を見ると娘の可愛らしい笑顔がそこにあった。
思わず顔が綻ぶ。
子供というのは何故こんない愛しいものなのか、と幸せに浸っていた時。
「危ない!!」
誰かの叫ぶ声。
そこからは、世界はスローモーションのようだった。
振り返るとこちらに向かってくる車が一台。
明らかにオーバースピードで、減速する気配がない。
咄嗟に娘の安全確保が頭に浮かび、間に合わないと判断して歩道の端、植木のある方へ向かって娘を思い切り突き飛ばした。
目の前まで迫る車。
運転席には、口から泡を吹き顔面蒼白になった、明らかに意識のない運転手。
突き飛ばされた娘の、まだ意味が理解できてない放心した顔。
この顔が、俺が最期に見た娘の顔だった。