一通のお手紙
俺は主人公になりたかった。特有のチートみたいな能力をふんだんに生かし、こりゃもう無理ですわww
みたいな敵をあっさりと倒してみたいと飽きるほど思った。
だから、俺は死にたくなった。
どんなに足掻いても特殊なことは起きない。非日常なんて一生こない。
そんなつまんない世界は生きていても意味がない。あぁ、死にたい。
夕暮れで学校の帰り道。ただ足を進め、家に帰り、飯を食べ、風呂に入り、明日も良い事がありますよう
にと、願いながら眠りにつくという作業の途中でそんなことを意味深な表情を浮かべ、考えていた。
ふと、ポケットにある携帯が震えた。取り出してみると、微塵も興味が沸かない会話が繰り広げられてい
た。そこに適当に返事をし、さっさとしまう。これも俺が生きていても意味がない理由の一つだ。
問題のないように日々を過ごすにはそれなりの妥協が必要だ。他人に自分が必死に考えた意見を「つまら
ない」の一言で無下にされてしまっても、笑顔でいなければならない。もし、そこで強引に通してしまったら、明日からは自己中という不名誉なレッテルを張られた生活が待っているだろう。現代の学校ではそのような立場は「死」を意味する。
普段から死にたいを連続している俺だが、そんな事では死にきれない。どうせ、死んでしまうなら美少女
に囲まれながら逝きたいものだ。一人一人が俺の死を悲しむ。そんな状況の中が男子ならば理想の死に場であろう。
少し長めのため息をつく。こんなことを考えて何になるんだ。決して叶いもしない理想を考えたところで
現実になるわけでもない。無駄だ。
見慣れた風景が多くなってきた。我が家が近くなってきた証拠だ。距離と比例して、胸いっぱいに黒い感
情が広がっていく。──あぁ、この無駄な繰り返しの日常はいつ終わるのだろうか。
家の前についてしまった。外気に反してやけに冷たい鉄製のドアを開けようとすると、背中を叩かれたよ
うな気がして、振り返る。
今まで興味がなかったポスト──その中に一枚の手紙が入っていた。いつもならば、手紙の一つや二つは
無視するのだが、何故かそれには無視できない不思議な力が働いているようだった。
目が背けられない。
手に取らなければいけない。
中を開けなければいけない。
俺は手紙をポストから出し、その場で開封した。──それは一瞬だった。
手紙から眩いばかりの光が溢れ出し、俺の身体を包み込む。何が起こっているのか分からない俺の目の前
にゲームのようなメッセージウィンドウが映し出された。あぁ、これは──。
『 厳正な審査の結果、貴方は主人公に選ばれました 』
身体が震えるのが分かる。これは恐怖ではない──歓喜だ。
口角が徐々に上がっていくのが分かる。
夕暮れを背景に、一人の男──いや、『主人公』はようやく絶望の中に希望を発見した。